天蚕糸てぐす)” の例文
いつものように黄昏たそがれの軒をうろつく、嘉吉引捉ひっとらえ、しかと親元へ預け置いたは、屋根から天蚕糸てぐすはりをかけて、行燈を釣らせぬ分別。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天蚕糸てぐすでも宜いわけだが、てぐすは水の中でないとかへつて眼につくから、曲者は骨を折つて馬の尾を搜して來た。尤もこの邊は、田舍が近いから、活き馬の尻尾を
綸、天蚕糸てぐすなど異りたること無し。鉤もまた昔ながらの狐形と袖形となり。たゞ鉛錘おもり近来ちかごろの考に成りたる由にて、「にっける」の薄板をせたれば光り輝きて美し。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
人間の疵口を縫うには先年まで猫の皮から製した糸を使ったが陸軍の発明で今では天蚕糸てぐすの精製したものを使う。天蚕糸は直きに溶けてしまうから糸を引抜く世話がない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)