大檣たいしょう)” の例文
たちまち海上はるかに一声のらいとどろき、物ありグーンと空中に鳴りをうって、松島の大檣たいしょうをかすめつつ、海に落ちて、二丈ばかり水をけ上げぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その服装より見れば海賊の巨魁きょかいならん、剣を甲板上に投げ棄て、大檣たいしょうにその身を厳しく縛りつけいたり、実に合点の行かぬ事ながら、しばらく考えて余はハハアと頷きたり
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「止まれ!」たちまち大檣たいしょうにスルスルと停止信号が上る。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
仰ぎ見る大檣たいしょうの上高く戦闘旗は碧空へきくうたたき、煙突のけぶりまっ黒にまき上り、へさきは海をいて白波はくは高く両舷にわきぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
十数人の海賊は兇刃を閃めかして追いまわす、船長は泣けり叫べり、屍を取って楯となし、しばし必死と防ぎしが、多勢に無勢到底敵するあたわず、大檣たいしょうをまわり羅針盤の側を走り
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
やがて戦闘旗ゆらゆらと大檣たいしょういただき高く引き揚げられ、数声のラッパは、艦橋より艦内くまなく鳴り渡りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
昇降口のおおいを閉せば、その陰鬱なる事さながら地獄のごとし、しかり、ここはたしかに地獄なり、余の頭上にあたる甲板上には、今なお身を大檣たいしょうばくせるまま死せる人間もあるにあらずや。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)