すす)” の例文
もはや、渡舟さえも見えなくなり、男は歯をくいしばってうつ向き、人に顔を見られぬようにすすり泣きをした。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
橘はやっと二人のむくろのある土手のうえに辿たどりつくと、そのまま、草の上に膝をついて潜々さめざめすすり泣いた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
小さなさけびごえやすすりなきの声でなければ、妙に息苦しいものがあえぎながら見えていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼女はさめざめと持彦にもたれてすすり泣いた。それは愛情が極まったくやしさもあれば、もう何処どこにも行かない、あなた様のおそばよりほかに行くところがないというあかしでもあった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ときにはすすり泣きの声を聞くまで理由のないことで責めたりする、それは愛情がかゆいところに手のとどかないような気のするときとか、愛情の過剰がそういう現われに変ったりするのである。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)