吉水よしみず)” の例文
綽空しゃっくうは、毎日、その坂を越えた。吉田山から鳥居大路へ出て、吉水よしみずの禅房へ通うことが、どんな風雨の日でも、休みなき日課であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は吉水よしみず法然聖人ほうねんしょうにんに会った時、即座にその救いが腹にはいりました。あなたの今の感じのとおりです。さながら忘れていたものを思い出したようでした。まるで単純な事です。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
法然は一向専修いっこうせんじゅの身となったので、叡山を立ち出でて西山の広谷ひろたにという処に居を移したが、やがて間もなく東山吉水よしみずの辺に静かな地所があったものだから、広谷のいおりをそこへ移して住み
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「……吉水よしみず上人しょうにんには、はや今ごろは」善信は、持仏堂を出て、縁に立った。未明の空を仰ぎながら、ふとつぶやいて、憮然ぶぜんとなった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
粟田山あわたやまの樹々は、うっすらと日ごとに春色を加えてきた。黒谷の吉水よしみずには、夜さえ明ければ、念仏のこえが聞えやまなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この辺から黒谷や吉水よしみずのあたりは、念仏門発祥の地であるので、祖師親鸞しんらんの遺跡が多いし、念仏行者の法然房が讃岐さぬきへ流されるその前夜は、たしかこの小松谷の御堂とやらにあって
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)