半巾ハンカチ)” の例文
今度はわたしが手を替へて、優しく下手したでに出た。すると娘はシク/\泣きだして半巾ハンカチで顔をおほつてばかりゐる。わたしは情けなくなつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
お信さんは私に半巾ハンカチを貸してくれた。そして自分もほつとしたやうに、につこり微笑んで見せた。が、直ぐには乳房を仕舞はうとはしなかつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
その終りかける頃、その婦人がふいと半巾ハンカチを取りだして顔にあてがったのを私は認めた。しかしそれは何んのためだか、私には分からなかった。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その顔を、じっと、見つめながら、紳士は洋服のかくしから半巾ハンカチを取り出した。そっと両方の眼を拭っているのである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春子は、半巾ハンカチで口のまわりの汗を拭き拭き、部屋の真ん中にぺったり坐った。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二本の指先で私の右の両瞼を上下にきあけて、半巾ハンカチの先を唾液つばで濡らし/\、幾度となくこするやうに拭き取つた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
まるで一枚の半巾ハンカチでも飛んで来るように、白い前掛をした女が彼方から走って来た。ちょうど海から霧が上陸あがって来て、街燈の灯まで二重になって見えるように往来がけぶっていた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)