創痍きず)” の例文
この創痍きず多き胸は、それを想うてだに堪えられない。この焼けただれた感情は、微かに指先を触れただけでも飛び上るように痛ましい。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
帰国以来僕は心に創痍きずを得て、いまだ父の墓参をもはたさずにゐる。家兄の書信にると八十吉は十二で死んでゐるから僕の十一のときであつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
氏が自分から私に押したあの時の執拗さに反発され、それが氏に創痍きずを残していることが想像される。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
『傷いた獣、それで好い、それで十分だ、創痍きずの治るまでは私は暗い地上に横はつてゐやう!』
心の階段 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
いろんな面で何かの創痍きずがさけられないのならば、最も肉のあつい部分でそれをうけなければなりますまい。母親が子供のおしりをぶっても眼の上は打たないように、ね。
新たなる創痍きずを胸の中に呼びまされて涙を呑みました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)