倥偬こうそう)” の例文
しかも倥偬こうそうの際に分陰ふんいんぬすんで記しつけたものと見えて大概の事は一句二句で弁じている。「風、坑道内にて食事。握り飯二個。泥まぶれ」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兵馬倥偬こうそうの中に、武人として、伊勢神宮を修理したり、禁裡きんり築土ついじの荒れたのをなげいて、御料を献じたりしていた人に、信長の父信秀がある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵馬倥偬こうそうを極める唯今のやうな時局下に、私は無慙な閑談を試みたとがめを蒙るかもしれない。
柘榴の花 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
西南の役に当たり兵馬倥偬こうそうの際に、矯激の建白書を捧げ、平和の手段をもって暗に薩州の叛軍に応じたるかの土州民権論者は、大久保参議の薨去こうきょを見てふたたびその気焔を吐き
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
わたくしは江戸城のまさに明渡されようとする兵馬倥偬こうそうの際、『十家絶句』の如き選集が江戸において刊刻せられたのを見て奇異の思を禁じ得ない。江戸の開城は四月四日である。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
邦夷らの棲居すまいがここに、——ここだけに限られようとは夢に見たことも無かった。あわれみの一片が投げあたえられたのであったかも知れない。兵馬倥偬こうそうのあいだには遊びに来る子供も見えなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
こういう一世の人物や勇将を端的に土俵へあげて闘わせて観る愉快さには、またべつな興味もあったに違いなかろうが、ともかく兵馬倥偬こうそうのあいだにあっても、彼は天放快活に遊ぶ日はよく遊んだ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)