下向したむき)” の例文
「何と云ったって、忘れたかい」と宗近君も下向したむきになって燐寸マッチる。刹那せつなに藤尾のひとみは宗近君の額を射た。宗近君は知らない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうさう下向したむき寝返ねがへりを仕初めたのも這ひ出したのも一緒の日からでしたね、牛乳を飲む時には教へられないのに瓶を持ち合つて上げましたね、あなたがたはね
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それから飛びつくように上半身をたわめて乗り出すと、片手を窓枠にしっかと、片手を思いきり下向したむきに伸ばし伸ばし、うるさく垂れさがる亜麻色の髪毛をまた、幾度か振り立てて笑った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
敬太郎はこの気楽そうな男の口髭くちひげがだらしなくれて一本一本下向したむきに垂れたところを眺めながら
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一はのぼったままの姿勢をくずさずに尾を下にして降りる。人間に問うがどっちがむずかしいか知ってるか。人間のあさはかな了見りょうけんでは、どうせ降りるのだから下向したむきに馳け下りる方が楽だと思うだろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)