するめ)” の例文
赤いうすのような頭をした漁夫が、一升びんそのままで、酒を端のかけた茶碗ちゃわんいで、するめをムシャムシャやりながら飲んでいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
押砂河岸に上る前に、木下きおろし河岸で朝早く売りに来た弁当を買った。それの刻みするめあたって腹痛を感じたとのみは思えなかった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
(與助と雲哲、願哲は助十を支へてゐる。下のかたの路地口より左官屋勘太郎、三十二三歳、身綺麗にいでたち、角樽つのだるするめをさげて出づ。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
例えば、すずり箱をアタリ箱といい、すりこぎをアタリギといい、すりばちをアタリバチといい、するめをアタリメというの類である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
受持教員に対してなるべく鰹節かつおぶしの造り方とか、するめの乾かし方とかいうごときことを多く授けてもらいたいと注文する人もあるとのことであるが
誤解せられたる生物学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
梅野とモ一人の看護婦が來て、林檎をたり、するめを燒いたりして呉れたが、小野山は院長から呼びに來て出て行くとモ一人の方の看護婦も立つた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
雪駄せったも広く用いられた。上物は表二枚乃至ないし三枚重ね、安物は一枚表、日が当るとそっくり返って焼きざましのするめみたい。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
掲げ其中より取出とりいだしたる柳樽やなぎだる家内かない喜多留きたるしるしゝは妻をめとるの祝言にやあさ白髮しらがとかい附しは麻の如くにいとすぐとも白髮しらがまで消光くらすなる可し其のほかするめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうち自分のせ細った骨と皮だけのような手が、なんだか火に焼かれているするめの足かなんかみたいに哀れ深く見えて来て、いやな気持になった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
お島はなぐさみにするめんでいた。乳呑児の乳を放させ、姉娘に言って聞かせて、炉辺ろばたの戸棚の方へ立って行った。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吉例により乾雲丸と坤竜丸を帯びた一、二番の勝者へするめ搗栗かちぐりを祝い、それから荒っぽい手料理で徹宵てっしょうの宴を張る。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天気が良くてするめに出来る日に比較すると、雨の日の烏賊は値段が十分の一位に下ってしまうそうである。
雑魚図譜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
朝干して居た烏賊いかが竹敷から歸りに見ると餘程するめの臭ひになつてゐた。對州も一寸覗いただけでもう壹州へ渡るのだ、仕方が無い。今日は雨である。(六月廿六日)
対州厳原港にて (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
天日てんぴさらして乾かしてから生麩なまふの粉などを入れてな、それで団子を作って食ったものもあったぞ、それから松の枝を剥いでするめのようにして食い出した者もあったぞ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
屍体以外には、ポケットの中に油紙に包んだ巻煙草まきたばこの袋と、マッチと、焼いたするめが一枚這入っていたそうで、弁当箱の中味や、水筒の酒も減っていなかったそうです。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
工事中の新築の階下へ行って見ると、材木や煉瓦やセメント樽を片寄せて炭火を焚いてる周囲に店員が集って、見舞物の握飯むすびや海苔巻を頬張ったりするめを焼いたりしていた。
路地の入り口で牛蒡ごぼう蓮根れんこんいも、三ツ葉、蒟蒻こんにゃく紅生姜べにしょうがするめ、鰯など一銭天婦羅てんぷらげて商っている種吉たねきちは借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉うどんこをこねる真似まねした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
かえってするめぐらいの方がい、随分酔うものだよ、さアずっと側へ来な、奥方頼みます
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
竹の皮を別にして包んだ蓮根れんこん煮附につけと、きざするめとに、少々あますぎるほど砂糖の入れられていたのも、わたくしには下町育ちの人の好むあじわいのように思われて、一層うれしい心持がしたのである。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
するめは不消化なれども蛋白質は六割九分、脂肪は三分にて滋養分多し。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
米の磨汁とぎしるを飲むものもあれば松の樹の薄皮を引きむしってするめのようにして食うものもあり、赤土一升を水三升で解きそれを布の上へ厚く敷いて天日に曝らして乾いたところへの粉を入れて団子に円め
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「はは、するめの附け焼きとは初めてだね。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
すなわち、結納ゆいのうの目録に、昆布を「子生婦」と書し、するめを「寿留女」と書し、柳樽を「家内喜多留」と書するの類は、みな文字によりて祝する縁起なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
神官しんくわんちひさな筑波蜜柑つくばみかんだの駄菓子だぐわしだのするめだのをすこしばかりづつそなへたしよくまへすわつて祝詞のつとげた。れはおほきなあつかみいたので、それをさらかみつゝんだのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
種吉は河童路地の入口で、牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉、蒟蒻、紅生姜、するめ、鰯など一銭天婦羅を揚げ、味で売ってなかなか評判よかったが、そのため損をしているようであった。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
お時は一張羅いっちょうらの晴れ着をぬいで、ふだん着の布子ぬのこと着替えた。それから大事そうに抱えて来た大きい風呂敷包みをあけて、扇子や手拭や乾海苔やするめなどをたくさんに取り出した。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勉は名倉の母からの届け物と言って、するめ、数の子、鰹節かつおぶしなどの包をお雪の方へ出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「与八さん、このするめも食べてごらんよ、お団子ばかり食べないでさ……」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するめ 二一・〇八 六九・五三 三・二二 六・一七
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
例えば結納の目録に、昆布を「懇婦」または「子生婦」と書し、柳樽やなぎだるを「屋内喜多留」と書し、するめを「寿留女」と書し、たいを「多居」と書するは、みな縁起のよきを祝するのである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ぢいやがあをたけほそけづつてれますと、それにとうさんが御飯粒ごはんつぶかみりつけまして、するめのかたちのたこつくりました。みんなのするやうに、たこには矢張やはりかみながつてさげました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)