馬糞ばふん)” の例文
礫が少し止むと、今度は店先へ馬糞ばふんを投げ込んだり、裏の井戸へ猫の死骸を入れたり、全く手のつけやうのない惡戯が始まりました。
赤緒あかお下駄げたと云えば、馬糞ばふんのようにチビたやつをはいている。だが、雑巾ぞうきんをよくあててあるらしく古びた割合に木目がきとおっていた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
と、ふとんもつくえも、よろいびつまでもここへもちこんできて、馬糞ばふんにおいのプンプンする中に、平気で毎日毎日寝起ねおきしていた。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
けるいぬほふりて鮮血せんけつすゝること、うつくしくけるはな蹂躙じうりんすること、玲瓏れいろうたるつきむかうて馬糞ばふんなげうつことのごときは、はずしてるベきのみ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
故に、氏郷はその若年時代には、柴田勝家の配下にあって、兵たちと、馬糞ばふんの中の陣生活をしていたこともあるのである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駅の前の広場、といっても、石ころと馬糞ばふんとガタ馬車二台、さびしい広場に私と大久保とがかばんをさげてしょんぼり立った。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
折り詰めを開き見るに、土塊つちくれ馬糞ばふんあるのみ。ここにおいて、老僕輩は全くこれを老狐の所為となし、自らこれにだまされたるを深く残念に思いたり
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
其の赤児あかごをば捨児すてごのやうに砂の上に投出してゐると、其のへんにはせた鶏が落ちこぼれた餌をも𩛰あさりつくして、馬の尻から馬糞ばふんの落ちるのを待つてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
馬糞ばふんに汚れた県道筋を、一直線にとんできた自転車は、軒先にたっている鷲尾のまえで輪を描いてとまった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
峡中の美橋、美恵みえ橋が現れて来た。一名ふんどし橋というのがそれだ。褌の節約と馬糞ばふん拾集しゅうしゅうとから得た利益を積み立てて架橋したのが大正三年の洪水で流出した。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
今年の自家うちの麦は、大麦も小麦も言語道断の不作だ。仔細は斯様こうである。昨秋の麦蒔むぎまき馬糞ばふん基肥もとごえに使った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
凸凹でこぼこの激しい、まるい石畳の間を粉のような馬糞ばふん藁屑わらくずが埋めて、襤褸ぼろを着た裸足はだしの子供たちが朝から晩まで往来で騒いでいる、代表的な貧民窟街景の一部である。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そうして、馬糞ばふんの重みに斜めに突き立っているわらの端から、裸体にされた馬の背中まであがった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
「仏とはなんぞや」「乾屎橛カンシケツ」かわいた馬糞ばふんであると答えた禅宗の坊さんがあったはずであります。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
きず持つ足の千々岩は、今さら抗議するわけにも行かず、倒れてもつかむ馬糞ばふんしゅうをいとわで、おめおめと練兵行軍の事に従いしが、この打撃はいたく千々岩を刺激して
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
障子に畳にお神棚かみだなに漂って、小さなつむじ風であろう、往来の白い土と乾いた馬糞ばふんとがおもしろいようにキリキリと舞いあがって消えるのが、格子戸ごしに眺められる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんぢは空しき白日の呪ひに生きよ!——こんなふうの詩とも散文とも訳のわからない口述原稿を、馬糞ばふんの多い其処の郊外の路傍にたゝずんで読み返し、ふと気がつくと涙を呑んで
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
鮑貝あわびがい杓子しゃくしの様にこしらえたものをたずさえて、街道に落ちて居る馬糞ばふん拾いをして歩いたものだ。
「そう。昔はもっと小さく、幅も狭かった。あちこちに馬糞ばふんが落ちているような橋だったよ」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかしてまたその間各〻品格の差あるは免るべからざる事実ならずや(略)馬糞ばふんを詠み
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おかげで夕飯のたしになつたが、それからといふもの、日の暮れがたに町を歩いてゐると馬糞ばふんがサツマに見えて、ついサンダルのさきで軽く小あたりにつて見たくなつたものだ。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
ときとしては柳条にりて深処にぼつするをふせぎしことあれども、すすむに従うて浅砂せんさきしとなり、つひに沼岸一帯の白砂はくさげんじ来る、砂土人馬の足跡そくせき斑々はん/\として破鞋と馬糞ばふんは所々に散見さんけん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
しかし丁度日ざかりで、砂の白く乾いた道の上には私たちの影すらほとんど落ちない位だった。ところどころに馬糞ばふんが光っていた。そうしてその上にはいくつも小さな白い蝶がむらがっていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
凝血腸詰ブウダンをほおばる天使長ガブリエル、泰然と大海老オマアせせ馬糞ばふん紙製の小豚、スウプをふき出す青面黒衣の吸血鬼ヴァンピール、共喰いをする西洋独活アスペルジュ、呂律のまわらぬライン葡萄酒の大樽、支那茶を吸い込む象の首
夕方の、むし暑い風が、せまい銀座横町の馬糞ばふんいろのほこりと、はえとを、へいごしに運んできて、そら豆の色が青いほか、ちゃぶ台の上は、白っぽくなった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕はその受け取ったる紙包みを開いて見れば、木の葉のみである。また、折り詰めを開けば馬糞ばふんが詰めてある。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
満月の輪廓りんかくはにじんでいた。めだかの模様の襦袢じゅばん慈姑くわいの模様の綿入れ胴衣を重ねて着ている太郎は、はだしのままで村の馬糞ばふんだらけの砂利道じゃりみちを東へ歩いた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
前に申しました「ぶつとは何ぞや」「仏とはかわいた馬糞ばふんである。」雲門うんもんの「仏とは麻三ぎんである」などと申しますのも結局そうでありまして、雲が風に吹かれて空を流れる。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
終日、肥汲こえくみ車や荷馬車のゴトゴトとひびいている退屈な町、馬糞ばふんに汚れた一本筋の町を、一日に二三度は往復した。町並はひどく不揃ふぞろいで、ここでも不景気がき出しにあらわれていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
しかし丁度日ざかりで、砂の白く乾いた道の上には私たちの影すらほとんど落ちない位だった。ところどころに馬糞ばふんが光っていた。そうしてその上にはいくつも小さな白い蝶がむらがっていた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
馬の尻から馬糞ばふんの落ちるのを待っている。
遊冶郎ゆうやろうがかッたるそうに帰って来る吉原組よしわらぐみの駕もあれば、昼狐につままれにゆく、勤番の浅黄裏あさぎうらもぼつぼつ通る。午後の陽ざしに、馬糞ばふんほこりが黄色く立つ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるじは毎朝早く家の前の道路を掃除して馬糞ばふんひもや板切れを拾い集めてむだには捨てず、世には何染なにぞめ何縞なにじまがはやろうと着物は無地の手織木綿一つと定め
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さらに自らもちを作り、その中にあんの代わりに馬糞ばふんを包み込み、祈祷の御礼に出かけ
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
銀行員だった幾田君の青白い坊っちゃん坊ちゃんした顔をおもいだしながら原稿をめくった。「退屈な町」というのが題名で、馬糞ばふんに汚れたこの町の事をスケッチしたものだが、まだおさない作品だった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
かみからのお吩咐いいつけとでもあれば、てんてこ舞して、道の馬糞ばふんを取って砂までくが、弱い者の訴えなどに、どうして本気に耳をかして捜してなどくれるものか。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああして道中の馬糞ばふん掃除とか、何とか、出来ることは勤めながら、物乞いをしておりますようなわけで……
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし——二十余年前には、この清洲のお城で、馬糞ばふんを掃き、お草履をつかむ御小人おこびとであった時代もある。その頃をわすれぬためとか。さても殊勝なお心がけよの
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガラス工場の職工もいた、南京墓の番人もいた、貧乏異人館のコックもいた、競馬場の馬糞ばふんさらいもいた、チイハの運送屋もいた。みんなそれぞれ、一理屈をむくいた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若葉の夕闇に、ここかしこ、陣屋の炊煙すいえんが上がっていた。どんな幽邃ゆうすいな寺院も、ひとたび軍馬の営となると、そこは忽ち旺盛おうせいな日常生活の厨房ちゅうぼう馬糞ばふんのぬかるみになった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坂の途中に、切れ草鞋わらじ、手拭、折れ矢、笠、馬糞ばふんなどが踏みにじったように散乱していた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、彼の人数の如きは、遥かしもの方にあって、町屋の軒端にたたずみ、主君の貴賓きひんが通る往来の馬糞ばふんを掃き取らせたり、野良犬を追ったり、辻のいましめに気を配ったりしているに過ぎないのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬糞ばふんだけだよ、ここにあるのは」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)