じょう)” の例文
ひたっと、体を、牢格子のじょうへ押しつけた蔵六の手は、わなわなと、腰の鍵を外していた。ガチッと、掌のなかで、錠のつのねた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに戸棚という戸棚、押入という押入のたぐい、いずれをも押してみても、がっちりじょうが下りている、そうでなければ釘附けです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戸を開けようとしましたが、外からじょうがおりています。窓の所へ行ってみましたが、太い鉄棒の格子こうしがついていて、身体からだが通りません。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
なぜなら、近所の男の子たちにリスをぬすまれないように、うちの子どもたちが戸にじょうをかけておいたのを、ちゃんと知っていたからです。
散々折檻せっかんされた後、私は祖母に引きずられて庭の籾倉もみぐらの中に押し込まれた。そして、ちょうどこの監獄のように外からじょうをかけられた。
その戸口にはじょうがかかっています。双親ふたおやは、どうしてこんな家がひょっこり建ったのだろうとふしぎでたまりませんでした。ウイリイは
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「じゃあ、こうおしなさいよ。あたしはここで、じょうおろされて小さくなっているから、そこまで行ってかせいでおいでなさいよ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ことに、最地階の出入り口のじょうのことと、それがその階上のどんなところへつづいているかということ、この二つはたいへん参考になった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その間に倉地は手早く着がえをして、書類を大きなシナかばんに突っ込んでじょうをおろしてから、綿密にあくかあかないかを調べた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
安井は門口かどぐちじょうをおろして、かぎを裏のうちへ預けるとか云って、けて行った。宗助と御米は待っている間、二言、三言、尋常な口をいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その証拠は、開けるにはどうやら開けましたが、あとを閉める工夫が付かないので、金箱はそのままじょうをおろさずにあります
侍女 ええ、じょうかぎは、がっちりささっておりましたけれど、赤錆あかさびに錆切りまして、しますと開きました。くされて落ちたのでございます。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
牢屋ろうやとびらにかかっているじょうもそのままであれば、なにひとつあたりに、かわったこともなかったのに、おとこばかりは、いなくなったのであります。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なれた人には、一本のはりがねがあれば、どんなじょうでも、あけられるのですが、それよりも、この万能かぎの方が、もっと、使いやすいのです。
鉄人Q (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それでも私は細心の注意をして、音を立ないように三階の一番奥の自分のへやに忍び込んで、内部からソッとじょうおろした。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しめて、じょうをおろして、それから雨戸もしめてしまいなさい。人に見られて、うらやましがられても具合いが悪いからな。
禁酒の心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
じゃあ、こうして下さい。外からじょうをおろして行きますから、その間この上の方を調べて見てくれませんか、懐中電灯を
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
こうしておいて、ハンスはうちにとんでかえり、入り口の戸にじょうをおろしました。そして、じぶんのいすにこしをおろして、しごとをしていました。
右京の去った後で、信祝は、もう一度書類を読み直したが、とこの間から、革帯のかかった手箱を取ると、じょうを開けて、下の方へ仕舞しまい込んでしまった。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
実際どの部屋へや湿しめっぽくて寒いので、わたしは二階の火のある所へ行きたくなったのである。私たちは警戒のために座敷のドアにじょうをおろして出た。
山姥やまうばひつの中にはいると、おんなそとからぴんとじょうろしてしまいました。そして石のひつの中から女の子をしてやって
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それからはぼくにうちで留守番るすばんさせて、このスープの見張みはりを言いつけた。毎朝出て行くまえに肉と野菜やさいをなべに入れて、ふたにじょうをかってしまう。
「ここらは下駄を取られますから。格子にじょうがないんですもの」と、お君は言い訳をしながら濡れた傘を受取った。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
のみならずいくら本を読んでも、寝つかれないことさえまれではない。こう言う僕の枕もとにはいつも読書用の電燈だのアダリンじょうびんだのが並んでいる。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
海老之丞えびのじょうこたえました。これは昨日きのうまで錠前屋じょうまえやで、家々いえいえくら長持ながもちなどのじょうをつくっていたのでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
二人はめがねをはずしたり、カフスボタンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんとじょうをかけました。
注文の多い料理店 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
長い廊下の両側には、じょうの下りた幾十という独房がズラリと並んでいた。俺はその前を通ったとき、フトその一つの独房の中から低いしわぶきの声を耳にした。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ガチンとじょうの上がる音、ギーと開く牢屋口、ズイと二人はいり込んだ。雪洞の灯に照らされて、ボッと明るい牢の中、その中央の板敷きに、何か生き物がいるらしい。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
じょう。朝鮮李朝。鉄に銀象嵌。巾三寸九分。丈二寸四分。下部厚み一寸一分。朝鮮民族美術館蔵。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
紫縮緬むらさきちりめん錏頭巾しころずきんをかぶり、右の顳顬こめかみにあたる所に小きじょうを附け、紫縮緬に大いなるからす数羽飛びちがひたる模様ある綿入に、黒手八丈くろではちじょうの下着、白博多の帯、梅華皮かいらぎざめの一本差
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
じょうはずれた木戸がしぜんと開くように、少しずつ大きくなり、下顎が垂れさがるようにみえた。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どーんとからだごとぶつかってみた。しかし、ドアはうちがわから、しっかりとじょうがかかっている。
「あちらの戸口にはじょうがおりていますよ、それに自分で鍵を持っていらっしゃるくせに……」
ずいずいと近寄りながら、こじりじょうを手もなく叩きこわして、さッと蓋をはねのけました。
それから自分の部屋にはいってじょうをかけたな。これはまさしく、彼の心がまだ解けない証拠なのだ。それでは、どれ、ペピス爺さんがいつも口癖に言うように、寝るとしようかな。
そのうえ子供たちを家の外へ追い出して、家の戸にはじょうを下ろしてしまったのです。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ここには今でも安倍貞任あべのさだとうの母住めりと言い伝う。あめるべき夕方など、岩屋いわやとびらとざす音聞ゆという。小国、附馬牛つくもうしの人々は、安倍ヶ城のじょうの音がする、明日あすは雨ならんなどいう。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
じょうをおせば、このトランクは、たちまちとびだすしかけになっていたのでした。
「火事だよう」「火事だァよゥ」彼方あち此方こちで消防の若者が聞きつけ、家に帰って火事かじ袢纏ばんてんを着て、村の真中まんなかの火の番小屋のじょうをあけて消防道具を持出し、わッしょい/\けつける頃は
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
例えば井戸に物がちたと云えば、如何どう塩梅あんばいにしてこれげるとか、箪笥たんすじょうかぬと云えば、くぎさきなどを色々にげて遂に見事に之を明けるとか云う工風くふうをして面白がって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が老人は正体もない。病人は狭窄衣をぬいで、寝台を抜けだした。彼はもう自由の身だった。彼は扉にあたってみた。内側からじょうがおりている。かぎは恐らく看視人のポケットにあるのだろう。
又次のお居間の襖をスラリ/\と開けるから、お國はハテナ誰かまだ起きて居るかと思っていると、地袋じぶくろの戸がガタ/\と音がしたかと思うと、じょうを明ける音がガチ/\と聞えましたから
出迎えようと思って、次のへ飛び出した。そこは真っ暗である。どこに戸のつまみがあるか見えない。まごまごしている内に、外からかぎさしじょうを開けた。戸がいた。マリイが這入はいって来た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
袈裟けさ、僧帽、くつ剃刀かみそり、一々ともに備わりて、銀十じょう添わりぬ。かたみの内に朱書あり、これを読むに、応文は鬼門きもんよりで、水関すいかん御溝ぎょこうよりして行き、薄暮にして神楽観しんがくかん西房せいぼうに会せよ、とあり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこで市民はたまらないから「それ明日あしたからモンラムが始まる」という時分には、その前日、早いのは四、五日前から、道具はことごとく一室に入れてじょうおろし、自分達は田舎いなかへ逃出してしまって
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
また今見た姿を隣人となりのひととは思ったが寝ぼけ眼の事だから、もしや盗賊どろぼうではないかと私はすぐ寝台ねだいから飛下とびおりて行ってドアじょうしらべると、ちゃんとかかっている、窓の方や色々いろいろと人の入った形跡を見たが
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
このじょうはずした。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
扉にじょうを卸した時には、軽く叩いてみて返事がなければ入るなと、こう命ぜられてあるから、金椎はそのおきてを守って引返しました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その突き当りに、じょうのかかッている厚い欅戸けやきどがあり、かれは、その外へピッタリと身を寄せて、シンとした中の気配をさぐっていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まわすたびに、カチッ、カチッと、てごたえがあって、金庫のじょうがはずれました。おもい鉄のとびらが音もなく開きます。
怪人と少年探偵 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)