かつ)” の例文
何故といつて、富豪は懐中ふところに手を突込んで相手をなだめるじゆつを知つてゐるが、貧乏人はかつとなるより外には仕方がないのだから。
その證拠にはときどき私がかつとしてむかつてゆくと彼は一騎打ちをしずにうまく逃げて遠巻きにひとを苦しめようとする。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
それぢや私もかつとして、もう我慢が為切れなく成つたから、物も言はずに飛出さうと為る途端に、運悪く又那奴あいつが遣つて来たんぢやありませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかしかうして、おの/\のはらつめた次第しだいさむつたところへ、ぶつきり大掴おほづかみ坊主ばうずしやも、相撲すまふつてもはらがくちくるのを、かつようと腹案ふくあん
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
り今癲癇といはれては口惜くやしくもあれ忌々いま/\しければかつと怒つてはしすてと立上り飛掛とびかゝり和吉が首筋くびすぢとるより早く其所へ引附目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんでも井戸浚さらへの時かで、庭先へ忙しく通りかゝつた父が、私の持出してゐたくはつまづき、「あツ痛い、うぬ黒坊主め!」と拳骨を振り上げた。私はかつとした。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
この教師は彼の武芸や競技に興味のないことを喜ばなかつた。その為に何度も信輔を「お前は女か?」と嘲笑した。信輔は或時かつとした拍子に、「先生は男ですか?」と反問した。
野村は我乍ら滑稽をかしい程狼狽うろたへたと思ふと、かつと血が上つて顔がほとり出して、沢山の人が自分の後に立つて笑つてる様な気がするので、自暴やけに乱暴な字を、五六行息つかずに書いた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かつると、躍上をどりあがつて、黒髮くろかみ引掴ひツつかむと、ゆきなすはだどろうへ引倒ひきたふして、ずる/\とうち引込ひきこむ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
物識りはかつとなりました。
さあ、それからは、宛然さながら人魂ひとだまつきものがしたやうに、かつあかつて、くさなか彼方あつちへ、此方こつちへ、たゞ、伊達卷だてまきについたばかりのしどけないなまめかしい寢着ねまきをんな追𢌞おひまはす。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なにげばさゝうなものだけれど、屋根やね一つとほくにえず、えださす立樹たちきもなし、あの大空おほぞらから、さへぎるものはたゞ麦藁むぎわらで、かつつてはきふくもる……うも雲脚くもあしらない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くも所々ところ/″\すみにじんだ、てりまたかつつよい。が、なんとなくしめりびておもかつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貴方あなたはな、とそれ、かつる。あのまぶたくれなゐふものが、あたかもこれへる芙蓉ふようごとしさ。自慢じまんぢやないが、外國ぐわいこくにもたぐひあるまい。新婚當時しんこんたうじ含羞はにかんだ色合いろあひあたらしく拜見はいけんなどもおやすくないやつ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
徐大盡じよだいじんかつり、とこに、これも自慢じまんの、贋物にせものらしい白鞘しらさやを、うんといて、ふら/\と突懸つきかゝる、と、畫師ゑしまたひるがへして、なかへ、ふいとはひり、やなぎしたくゞもんから、男振をとこぶりのかほして
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
屠者としや向腹むかぱらて、かつおこつて
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)