諄々じゅんじゅん)” の例文
すると、その耳へ諄々じゅんじゅんと入ってきたのは、善信の説いている真実な人間のさけびであった。他力の教えであった。念仏の功力くりきだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、お絹自身も真実を語らないし、冬木町の長屋をまわっても、誰一人として助力してくれる者のないこと、などを諄々じゅんじゅんと述べた。
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平次は諄々じゅんじゅんとして説き聞かせました。が、お美乃は涙にひたりながらも、頑固に頭を振って、平次の言葉をれようともしません。
慈愛のこもった御嶽冠者の諄々じゅんじゅんさとす言葉に連れて、怒りと悲しみにいら立っていた山吹の心も静まったか言葉もなくて俯向いていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで私は、前に掲げた種々の実例を挙げて、如何にドッペルゲンゲルの存在が可能かと云う事を、諄々じゅんじゅんとして妻に説いて聞かせました。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
武者修行が、そのいとぐちを聞いて勇みをなし、膝を進ませて、それを引き出しにかかると、雲衲は諄々じゅんじゅんと語り出でました
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
奴、んなことをぬかすだろうかと、私は好奇心があった。滔々とうとうと弁じている。諄々じゅんじゅんと説いている。口は学生時代から達者で
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自分も忍んで卑怯の名を受けなければならないと覚悟して、彼は黙って俯向いていると、伯母はまた諄々じゅんじゅんといい聞かせた。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その度毎たんびに苦い顔をされたが、何遍苦い顔をされても少しも尻込しりごみしないで口をくして諄々じゅんじゅんと説得するに努めたのは社中の弓削田秋江ゆげたしゅうこうであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
主人は、人間の性が如何に善であるかを、諄々じゅんじゅんとして説いてやった。皆んな一時の出来心で悪い事をするのだ、お前だってそうだろう、と云った。
忠僕 (新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
こう東雲師は諄々じゅんじゅんと私に向って申されました。私は、いかにも御もっとものお話ゆえ、必ず師匠のお言葉を守って今後とも勉強致します旨を答えました。
四分の一世紀前の第一次欧州大戦のとき、ここが如何に安全であったかという歴史について、諄々じゅんじゅん説明があった。
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
来り会する老若男女は、威風かたわらを払い、諄々じゅんじゅんとして説法する美少年の風姿に、まずその眼をみはったに相違ない。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それでないとこの先の見込みがつかないからと諄々じゅんじゅんと清吉の不勉強や不品行や物覚ものおぼえの悪い点を列挙して、清吉の教育法について呉々くれぐれも心配してくれたのである。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
諄々じゅんじゅんとしてわが身のことを説きさとさるるさまさながら慈母のを見るが如くならずや。この一書によりてわが三田に入りし当時の消息もまたおのづから分明ぶんめいなるべし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
老婆などはわざわざ立かえりて、「お前さんそこにそうよっかかって居ては危のうございますよ、危ないことをするものではありませんよ」と諄々じゅんじゅんさとさるる深切しんせつ
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
あるいは依頼いらい懇願こんがんするがごとく、あるいは諄々じゅんじゅんとして説くように、しきりに何かを明かしている弥生。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
最初さいしょからもうしきかせたとおり、一ったくらいですぐ後戻あともどりする修行しゅぎょうはまだ本物ほんものとはわれない。』とおじいさんは私達わたくしたち夫婦ふうふむかって諄々じゅんじゅんききかせてくださるのでした。
そして「色は空に異ならず、空は色に異ならず」とて、空の真理を諄々じゅんじゅんと説かれていったのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
私は彼女の顔色に絶えず注意を配りながら、あまり皮肉にならないように諄々じゅんじゅんと話して行きましたが、話し終ってしまうまで、ナオミはじっと下を向いて聴いていました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
茶道は日常生活の俗事の中に存する美しきものを崇拝することに基づく一種の儀式であって、純粋と調和、相互愛の神秘、社会秩序のローマン主義を諄々じゅんじゅんと教えるものである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
学の権威けんいについて云々うんぬんされては微笑わらってばかりもいられない。孔子は諄々じゅんじゅんとして学の必要を説き始める。人君じんくんにして諫臣かんしんが無ければせいを失い、士にして教友が無ければちょうを失う。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その物語をかんと欲する者、食を与えてこれをう時んば、一室をとざしてその内に入り、諄々じゅんじゅんとして人のごとくに談じた。しこうして人を害することなし、もっとも怪獣なりとある。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いらっしゃいいらっしゃいと雛妓を膝元ひざもとへ呼んで、背をでてやりながら、その希望のためには絶対に気落ちをしないこと、自暴自棄を起さないこと、諄々じゅんじゅんと言い聞かした末に言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
黒瀬は檻の鉄棒に顔をくッつけて、涙ぐんだ声で、諄々じゅんじゅんさとし聞かせるのであった。ゴリラの方でも、久方振りの対面を懐かしがってか、黒瀬の側へすり寄って来て、じっと蹲まっていた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これらにむかってわれわれが冬季常食する天下唯一の美味、摩訶まか不思議の絶味であるふぐの料理が、いささかの危険性なき事実を諄々じゅんじゅん力説してみても、その確実を容易に信じようとはしない。
河豚食わぬ非常識 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
私は、そのうつろな耳腔みみ諄々じゅんじゅんささやくことで驢馬の記憶を呼びさまそうとした。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
人間の時々刻々が、献身でなければならぬ。いかにして見事に献身すべきやなどと、工夫をこらすのは、最も無意味な事である、と力強く、諄々じゅんじゅんと説いている。聞きながら僕は、何度も赤面した。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼はいかなる懐疑者、煩悶者はんもんしゃをも、諄々じゅんじゅんとして教え導くにつとめた。
はた甚だ快しとせざる所なるをもて、妾は女生に向かいて諄々じゅんじゅんその非をさとし、やがて髪を延ばさせ、着物をも女の物に換えしめけるに、あわれ眉目びもく艶麗えんれいの一美人と生れ変りて、ほどなく郷里に帰り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
と老母は老母だけの心配を諄々じゅんじゅんといた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
諄々じゅんじゅんと物語るのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
諄々じゅんじゅんと説かれるうちに、関羽はいつかこうべを垂れて、眼の前の曹操を斬らんか、助けんか、悶々、情念と知性とに、迷いぬいている姿だった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声明の博士が、季麿青年を相手に諄々じゅんじゅんとして、こういうことを語り聞かせ、おたがいに夜の更くるを知らない時分に、不意に戸を叩く音がありました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次は諄々じゅんじゅんとして説くのでした。三輪の万七と八五郎のガラッ八は、ただ呆気あっけに取られるばかり。
いざという場合ふところ育ちのお嬢さんや女学生上りの奥さんよりもはるかに役に立つ事を諄々じゅんじゅんと説き
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それから諄々じゅんじゅんと説諭をして、『分ったかね? 改心してくれるだろうね。ね、君、ね』
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また自分の体験から、貧しい女は是非ぜひ腕に一人前の専門的職業の技倆ぎりょうを持つてゐなければ結婚するにしろ、独身にしろ、不幸であることを諄々じゅんじゅんさとして、ひろ子に看護婦になることを勧めた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
老人はなおも、諄々じゅんじゅんとして諸戸屋敷の恐怖を説くのであったが、彼の口ぶりは何となく、私達も、十年以前の丈五郎の従兄弟という人と、同じ運命に陥るのだ、用心せよ、と云わぬばかりであった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
諄々じゅんじゅんと説いて聴かせるようにすること、等々を注意して帰った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
輿入こしいれをするまえ八郎右衛門はむすめに向って諄々じゅんじゅんと説いた。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多年ふたりの行方をさがし歩いていることなど——誇張する気もなく誇張に落ちたが——何度も鼻をかみながら、諄々じゅんじゅんと眼を濡らして語った。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう言って諄々じゅんじゅんと語るところを見れば、必ずや相当の自信がないものではないと思わせられるのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
美しい娘の肩に手を置いて、汚らしい乞食こじき諄々じゅんじゅんとして語る様子は、何んという奇観でしょう。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この不しだらな夫人のために泥を塗られても少しも平時の沈着をうしなわないで穏便おんびんに済まし、恩をあだで報ゆるに等しいYの不埒ふらちをさえも寛容して、諄々じゅんじゅんと訓誡した上に帰国の旅費まで恵み
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と先生は諄々じゅんじゅんと説いてくれた。これは勉強しなければ危いという暗示だった。しかし然ういう直接為めになるのには感じがにぶ性分しょうぶんだから仕方がない。間もなく別の暗示が利いてしまったのである。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして諄々じゅんじゅんと、時代の一転を説き、新政の意義をさとし、さらに、これに逆行しようとする小さい反抗の、小我に過ぎないことを云い聞かせた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駒井は自分の研究事項に対しては、その人をさえ得れば非常に親切な開放心を持っていて、素人しろうとに向っても諄々じゅんじゅんとして説くことをいとわない気風を持っている。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次郎の耳のあかの隙間から諄々じゅんじゅんと入ってくる上人のことばは、皆平次郎にとって救いであり慰めであり、そして温かかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度は青年武士の冷笑を、白雲が、軽く受けて争わず、かえって諄々じゅんじゅんとして教えるの態度をとりました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)