そし)” の例文
くわを忘れたと気付き、取り帰ってさすがは烏だ、内の鶏なんざあ何の役にも立たぬとそしると、鶏憤ってトテコーカアと鳴いたという。
狷介けんかい不覊ふきなところがある。酒を飲めば、大気豪放、世の英雄をも痴児ちじのごとくに云い、一代の風雲児をも、野心家の曲者しれもののごとくそしる。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある人咸陽宮かんようきゅうくぎかくしなりとて持てるを蕪村はそしりて「なかなかに咸陽宮の釘隠しといはずばめでたきものなるを無念の事におぼゆ」
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
なほ父をして子にむかひてやぶさかならしむる者、人の己をそしるを聞き、事のまことさだかにせんためクリメーネのもとに行きしことあり 一—三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その外のあたり人にびて退いて人をそしるとか、表面うわべで尊敬して裏面りめん排撃はいげきするとか社会の人に心の礼のない事は歎ずるに余りあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
人の己れをそしる可きを弁えず、我家人の禍となる可き事を知らず、みだり無辜むこの人を恨み怒り云々して其結果却て自身の不利たるを知らず
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
より高き価値に対して盲目であることは、いかなる場合にも偏狭のそしりをまぬかれない。道元はすでに年少のころよりこの偏狭を脱していた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ひとあれほどにてひとせいをば名告なのらずともとそしりしもありけれど、心安こゝろやすこゝろざすみちはしつて、うちかへりみるやましさのきは、これみな養父やうふ賜物たまものぞかし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これについて私は余計なことをと、他のそしりあることをよく知りながら、ぜひともこの問題を解剖し解決しようためにその仔細を開陳したいのである。
伊波伝毛乃記いわでものき』といふものあり。これ曲亭馬琴きょくていばきんあんに人をそしりておのれをたこうせんがために書きたるものなりとか。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
用に立つ人物は、十人の内六人め四人そしるものである。十人が十人譽めるものは侫奸ねいかんである。なほ一つ心得て置くべきは權道である。これを見切と云ふ。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「十目の見るところ——言わぬが花だなあ、力めば時勢を知らないと言われるし、くさせば主家をそしるに似たり」
外記はこの世に未練もなく、また懺悔すべき罪もない。笑ふものは笑へ、そしるものは誹れ、なんとでも云はしておけ。申譯めいた書置などは要らぬことだ。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
かねの力できておりながら、金をそしるのは、生んで貰った親に悪体あくたいをつくと同じ事である。その金を作ってくれる実業家を軽んずるなら食わずに死んで見るがいい。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神も仏もしまさぬ此世に善悪のけぢめ求むべき様なし。たゞ現世の快楽けらくのみこそ真実ならめ。人の怨み、そしりなぞ、たゞ過ぎ行く風の如く、漂ふ波にかも似たり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
のみならず、本篇が「新青年」に連載中は、褒められるにも、そしられるにも、悉く最大級の用語を以ってせられた。事実、その渦の中で、私は散々に揉み抜かれたのである。
それに対してロスケリヌスは、類概念を名目に過ぎずとする唯名論ゆいめいろんの立場から、父と子と聖霊の三位は三つの独立した神々であることを主張して、三神説のそしりを甘受した。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
捕え所天おっとに決して其様な罪は無い彼に限ッて悪事は働かぬとか所天が牢へ入られるなら私しも入れて下さいとか夫は/\最う聞くも気の毒なほど立腹し吾々を罵るやらそしるやら
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
読みて、何某は剛毅ごうきなり薄志弱行の徒は慚死すべしなどいふ所に到れば何となく我をそしりたるやうにおもはれて、さまざまに言訳いいわけめきたる事を思ふなり、かくまでに零落したる乎。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
総監、私は明朝この事件が落着すると同時に捜査課長の職を辞す人間ですから、あなたに偏狭な人間だと思われようが陰険なやつだとそしられようが、一向痛くも痒くもないのです。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
日本人の理化学思想に乏しい事をののしったり、オリジナリティのない事またそれを尊重しない事をそしったりしているが、大正の現在でも同じような事を云っている人が多いから面白い。
断片(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
都うつりをそしるならまだしものこと、歌ふに事かいて、あんなことをまで。……
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
還りては一三我が從父をぢ一四にまし、また天の下治らしめしし天皇にますを、今ひとへに父の仇といふ志を取りて、天の下治らしめしし天皇の御陵を悉に壞りなば、後の人かならずそしりまつらむ。
落して茫然ばうぜんとして居たりけるお專は如何にも氣の毒に思ひ種々いろ/\かんがへしに之は全く過日の惡物わるものわざに非ず同村中の人らんかく申さば何となく人をそしる樣なれども私しもかゝり合ひの事なれば心に思ふ所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
白壁のそしられながらかすみけり 一茶
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ドンコサックの群に湧きにしそし
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「わけを申せ。やいッ、そこな猿面郎えんめんろう、理もなく、武士をそしる法やある。百姓そだちの成上がり者、武士を遇する道を知らんかッ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある人咸陽宮かんようきゅうの釘かくしなりとて持てるを蕪村はそしりて「なかなかに咸陽宮の釘隠しと云わずばめでたきものなるを無念のことにおぼゆ」
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
父母寵愛してほしいままそだてぬれば、おっとの家に行て心ず気随にて夫にうとまれ、又は舅のおしただしければ堪がたく思ひ舅をうらみそしり、なか悪敷あしく成て終には追出され恥をさらす。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
人に対しては誰のことでもみだりにそしらないのが居士の美徳ではあったが、一年ばかりでその門に足を絶ってしまった一個の青年を長く記憶していてくれたのは
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もし叶ひたりとも、そは邪道にて、正当の人の目よりはいかに汚らはしく浅ましき身とおとされぬべき。我れはさても、殿をば浮世うきよそしらせ参らせん事くち惜し。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山中、外出の機会もなし、慣れてしまえば誰も、それを新しい女だといってそしるものもありません。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まことに危急存亡の秋なるに、この行ありしをあやしみ、又たそしる人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見し時よりあさくはあらぬに、いま我數奇さくきを憐み
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
みだりに俗説に従うことは不見識のそしりを免がれ得まいと私には考えられるのである。
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「売名」「軽薄」「増長」のそしりを免れない事は明白で、猟奇社はつまるところ面白半分に、横綱とトリテキを組み合わせようとしているのじゃないか知らん……猟奇的な悪趣味から
神、親、人およびその蒔かれその生れし處と時とたねとをそしれり 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いま曹操を討つのを、誰が無名のいくさとそしりましょうぞ。武王のちゅうを討ち、越王えつおうの呉を仆す、すべて時あって、変に応じたものです。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新聞記者などが大臣をそしるを見て「いくら新聞屋が法螺ほら吹いたとて、大臣は親任官、新聞屋は素寒貧、月と泥龜すつぽん程の違ひだ」などゝののしり申候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
良人をそしるは濟みませぬほどに最う何も言ひませぬ、關は立派な良人を持つたので弟の爲にも好い片腕、あゝ安心なと喜んで居て下されば私は何も思ふ事は御座んせぬ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
扨又本章中、人をそしり偽を言う可らず、人のそしりを伝え語る可らず云々は、固より当然のことにして、特に婦人に限らず男子に向ても警しむ可き所のものなれば、評論を略す。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まことに危急存亡のときなるに、このおこないありしをあやしみ、またそしる人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見しときよりあさくはあらぬに、いまわが数奇さっきあわれみ
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
本来、柴田勝家という人が、猛将の名はあるけれども、悪人のそしりは残していない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
法師は唇をめあげて、聴衆の上をねめまわしている。巧みに領民の弱点をついて、織田家の施政を暗にそしろうとする口うらがうかがえる。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新聞記者などが大臣をそしるを見て「いくら新聞屋が法螺ほら吹いたとて、大臣は親任官しんにんかん、新聞屋は素寒貧すかんぴん、月と泥鼈すっぽんほどの違ひだ」などとののしり申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
良人をそしるは済みませぬほどにもう何も言ひませぬ、関は立派な良人を持つたので弟の為にも好い片腕、ああ安心なと喜んでゐて下されば私は何も思ふ事は御座んせぬ
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我一身の大事は前によこたはりて、まことに危急存亡のときなるに、このおこなひありしをあやしみ、又たそしる人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見し時よりあさくはあらぬに、いま我数奇さくきを憐み
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いや夫婦ふたりにとれば、ただよろこびにもしておれまい。ひとのそしり、うしろ指、さらには前途、芸道の修行も長くけわしかろう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新聞記者などが大臣をそしるを見て「いくら新聞屋が法螺ほら吹いたとて、大臣は親任官、新聞屋は素寒貧すかんぴん、月と泥亀すっぽんほどの違いだ」などとののしもうし候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
良人おつとそしるはみませぬほどになにひませぬ、せき立派りつぱ良人おつとつたのでおとゝためにも片腕かたうで、あゝ安心あんしんなとよろこんでくださればわたしなにおもこと御座ござんせぬ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また、世間は将軍をさして、わが女房を奪われたる人よ、と蔭口をきくであろうと、わが身にそしりを受けるより辛く思われます
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)