親許おやもと)” の例文
良人おっと自分じぶんまえ打死うちじにしたではないか……にくいのはあの北條ほうじょう……縦令たとえ何事なにごとがあろうとも、今更いまさらおめおめと親許おやもとなどに……。』
「まあ、何がどうしたことやら、仔細しさいも聞かずに去状もらいましたと親許おやもとへ戻る女がありましょうか、お戯れにも程がありまする」
「よせ」と去定は女主人に云った、「こんな猿芝居はたくさんだ、それよりこの子を親許おやもとへ帰すがいい、親はどこにいるんだ」
それで梅をせき立てて、親許おやもとに返して遣ったのである。邪魔になる末造は千葉へ往って泊る。女中の梅も親の家に帰って泊る。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
親許おやもと厚木あつぎだそうで、人をやって調べましたが、其処には寄りつかず、請人うけにんは竹町の福屋甚兵衛という紙屋ですが、其処へも顔を見せません。
再婚の話を私に持ち出したのは、小夜さよ親許おやもとになっていた校長で、これが純粋に私のためを計った結果だと申す事は私にもよく呑み込めました。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どの道訳を立ていでは、主人方へ帰られる身体ではござりませぬで、一まず、秋谷の親許おやもとへ届ける相談にかかりましたが、またこのお荷物が、御覧の通りの大男。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何しろ二人とも親許おやもとをはなれている少年だったので、おこづかいは十分というわけには行かなかった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
世間でかれこれ云うばかりでなく、お由の親許おやもとでも不承知で、娘の死骸を素直に引き取らない。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芸妓げいぎ、遊女、茶屋女、その他何であるにしろ、いったん身売りの証文に判をついた以上、きれいに親許おやもとえんを切るのが習慣であり、その後の娘はいわゆる「喰焼くいやき奉公人」として
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きゝはなはねたましく思ひ其事柄そのことがらを主人へつげければ不義ふぎいへ法度はつとなりとて兩人共いとまとなりしかば右膳は女を親許おやもとよりもらうけ古郷こきやうの奈良へ連戻つれもどりしに父は大いに立腹りつぷくなし勘當せしかばやむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親許おやもとから月々いくらかの仕送りを受けることの出来る彼は、職業を離れても別に生活には困らないのです。一つはそういう安心が、彼をこんな気まま者にして了ったのかも知れません。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
数子 無論、親許おやもとの事情つていふわけはないね。両親はないんだし……。
秘密の代償 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「奢る! そうなれば道庵もこうして踏み倒されてばかりはいねえ。そうしてなにかい、親許おやもとはいったいどこで、いつ来てくれるんだろう」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
して、もしつかまったときは、これこれのわけだからと、親許おやもとへ知らせて呉れと云って、うん、……ぽろぽろ泣いたもんだった
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
内儀の余野は亭主とお房の間をこうとしたが、亭主の造酒助がどうしても承知しない。親許おやもとの無いお房もまた、何処へ行く当ても無かったのだろう。
目をわずらって、しばらく親許おやもとへ、納屋なや同然な二階借りで引きもって、内職に、娘子供に長唄ながうたなんか、さらって暮らしていなさるところへ、思い余って、細君が訪ねたのでございます。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸者ではいけない、なんでも親許おやもとは江戸から五里七里は離れている者でなければいけない。年が若くて、寡言むくちで正直なものに限る。それから一つは一年の出代りで無暗むやみに動くものでは困る。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
持參成れし成ずや夫等の事がらよもお忘れも仕給ふまじ夫より後も參られてめひの小夜衣が木場きばの客へにはかに受出さるゝことに成夫に付親許おやもと身受にすれば元金もときん五十兩にて苦界を出らるゝ故其五十兩の金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さあ、その親許おやもとだが」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その悪辣の手段というのは、女を盗み出すことじゃ、女を盗み出しておいて、親許おやもとを説き落してそれから談判させるのだ。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宿場女郎が自殺をすると、親許おやもと身代金みのしろきんをとられたり、いろいろひどい目に遇わされる。お女郎の自殺を禁止するという法律があって、ここまで人間の意志を束縛する法律は日本以外どこにもない。
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
近江屋へ奉公するにもその伯父さんが親許おやもとだった。
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「これが親許おやもとは。」綾子答えて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だが、一概にはいえない。花魁の借金が案外すくないようならば、親許おやもと身請けとでもいうことにして、なるべく眼立たないようにすれば、千両の半分でも話が付かないとも限らないが……。いったい花魁の借金はどの位あるんだろう」
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その親許おやもとが今日見えまして、連れて帰りたいということでございますから、さっそく道庵先生へお話を致しますると、先生は当家様へお頼み申してあるとおっしゃって
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よくまあ、昼日中ひるひなか、その面をさげて大江戸の真中が歩けたもんだ、口惜くやしいと思ったら、親許おやもとへ持ち込むんだね、親許へ持ち込んで、雑作ぞうさくをし直してもらって出直すんだ
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
東雲しののめが病気で親許おやもとへ戻っているというのは嘘だ、身請みうけをされてしまったのだ、という暗示は、馬鹿でない限り合点がてんのゆかねばならぬことです。この絶望と、今までの自分の血迷いかげん。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)