落度おちど)” の例文
私は自分の落度おちどを度外視して忠実な車掌を責めるような気もなければ、電気局に不平を持ち込もうというような考えももとよりない。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分の落度おちどを訴えるように、相手がたぐる話の糸に引き出方れて、その話すところ訴えるところに、少しも包みかくしがないのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんの近いところですけれども、一人で夜歩きをなさったのが、あの方の落度おちどでございますね、その帰りにやられてしまったんでございます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれどもなかば以上は御米の落度おちどに違なかった。臍帯纏絡の変状は、御米が井戸端で滑って痛く尻餅しりもちいた五カ月前すでにみずかかもしたものと知れた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
持ち長兵衞方へゆき五百兩かりて歸りけるがお常は此金このきんいりしより又々はなすがをしくなりし事まことに白子屋滅亡めつばうもとゐとこそは知られけれさて何をがな又七が落度おちど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかも、身重になつてしまつたといふ落度おちどがあつたので、私の家にゐても姉の私の母へは遠慮がちだつた。
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
畢竟ひっきょう婦人が家計の外部に注意せざりし落度おちどにこそあれば、夫婦同居、戸外の経営はすべて男子の責任とは言いながら、其経営の大体に就ては婦人も之を心得置き
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ことに、大した落度おちどがない限り、世襲の禄を保証されて食うに困らない役人などは、自然、ひまに任せて、愚にもつかないことで他人をろうし楽しもうというようになる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分ばかりの落度おちどというのでも無いのですが、当人はひどく苦に病んで、きのうは碌々に飯も食わないような始末でしたから、もしや思い詰めて何かの間違いでも……。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わがくにの園芸家がこれに着目ちゃくもくし、大いにその品種の改良をくわだてなかったのは、だいなる落度おちどである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
まさか、俺の落度おちどを見つけたがって、方々聞いて歩いてる亀久橋の文太郎じゃあるめえな。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
上使じやうしを斬りたるとがによつて、改めて今鬼界きかいしま流人るにんとなれば、かみ慈悲の筋も立ち、上使の落度おちどいささかなし。」この英雄的な俊寛は、成経康頼等の乗船をすすめながら
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、それは彼女の落度おちどではなく、新発明の地上超弩級ちょうどきゅう、タンク「マアク九号」の秘密漏洩ろうえいを防ぐ英国の警戒は、じつに厳重をきわめていて、マタ・アリにも歯が立たなかったのだ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
あざむかんとする意志があったのでなく、かえって我々のまったく知らなかったことが落度おちどで、彼はことさらにかくしもせねば包んでもいなかったが、吾人ごじんがそれを発見しなかったのが
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
女のことで一度落度おちどがあつたといふうわさだが、しかしそのことが原因ばかりでもない蔭の人の性分を十分持つてゐて、父や弟から、身内と召使ひとの中間の人間に扱はれ、雇人やといにんに混つて
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
なぜなら、ジョルジュはいくらか自分の息子むすこであり自分自身であるような気がした。そして、潔白なオーロラにあまり潔白でない伴侶はんりょを与えるのは、自分の落度おちどではあるまいかと考えた。
でもまあ日本の方にお目に掛って、めいうわさをするだけでも嬉しい。ああして姪が日本へ行ってしまったのは私が悪いのだ、私の落度おちどだ、とそう皆が私のことを申すのです……可哀そうな娘……
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
レヤチーズに多少の落度おちどでもあったなら、待っていたとばかりに王さまは、わしの一家を罰してほうむり去るのは、火を見るより明かな事ゆえ、わしは万全を期してレヤチーズをフランスへ逃がしてやり
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「兵庫儀は、殊のほか、短慮者でござれば、いかような落度おちどがあろうとも、死罪三度までは、おゆるしありたい」
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしまた、献上隊の方でも、もう少し事を穏かに掛合って、少なくとも米友を首肯せしむるだけの理解を尽さなかったという落度おちどもあるにはあるでしょう。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
申出ば此方へ役人をつかはすべし屹度きつと申渡すべきすぢあり其方共も落度おちどには毛頭もうとう相成あひなら氣遣きづかひ無用なり何分無禮ぶれいなきやうに致すべしと云渡いひわたしければ兩人は是をきゝきも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つみ産婆さんばにもあつた。けれどもなかば以上いじやう御米およね落度おちどちがひなかつた。臍帶纏絡さいたいてんらく變状へんじやうは、御米およね井戸端ゐどばたすべつていた尻餠しりもちいた五ヶげつまへすでみづかかもしたものとれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もともと自分にも落度おちどはあり、そんなことが表沙汰になった日には辰伊勢の暖簾のれんにもかかわることですから、とうとう誰袖の云うなり次第に内済金の百両を出すことになったんですが
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平太夫も近頃はめっきり老耄おいぼれたと見えまして、する事為す事ことごとく落度おちどばかりでございます。いや、そう云う次第ならもうあなた様の御前おまえでは、二度と神仏の御名みなは口に致しますまい。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半死の床にある母親を捨てて仏蘭西フランスを出たということは、あるいはマドマゼエルの落度おちどかも知れないが、それほど思いつめたところが無くてどうして単身東洋の空に向うことが出来ようかと。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「野郎、飛んでもねえ、呑んでかかったのがこっちの落度おちどだ……覚えてろ、よくも俺を斬りやがったな」
ちく一に白状はくじやうにはおよびされば殺害せしと思ふ當人を取逃とりにがし殊に御法度はつと一人旅ひとりたびとめ落度おちどの申譯立ちがたく罪は徳右衞門一人にし長き牢舍らうしやのうちあはれむべしかれ牢死ろうし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また有村様の横紙よこがみ破りな。万一お怪我けがのある時には、この啓之助の落度おちどとして、殿より御叱責しっせきをうけねばなりませぬ。どうぞ、今日はこの辺で、ひとつ日置流へきりゅうのお手際てぎわを拝見いたしたいもので
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の方にも落度おちどがないとは申されませぬ……私の方にもあの後家さんをためにしようと思う慾があったから、こうなってしまったんでございますが、これで私には
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御法度ごはっとを破って、秘法を盗みに、他国から住み込んでいる廻し者を、俺が見破ってやるのは、取りも直さずうぬ落度おちどを防いでやることになるんだ。恩とは思わねえで、人を蹴飛ばす法があるかッ
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし、本来を言えば島田にはなんのうらみもない、落度おちどはこっちにあるから自業自得じごうじとくじゃ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どこの馬の骨か素性の知れぬものをウカウカ連れて行って、もし、御隠家様にお叱りをうけては吾々の落度おちど、まず、この案内は御免蒙る。無駄足を覚悟で行くなら、一人でたずねて行かッしゃい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こっちにも落度おちどがあるとはいうものの竜之助の仕打しうちがあまりに面憎つらにくく思えるから、血気の連中の立ちかかるのをあえて止めなかったから、勢込んでバラバラと竜之助に飛びかかる。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「まったく今日まで気づかずにおりましたのは玄堂の落度おちど、早速、殿のお耳に達しましたところ、意外なお越しに驚かれ、御自身お迎えにもまいるべきでござりますが、先頃から少々お風邪のため、御老職曾根権太夫様が名代としてお出迎えにまいっております」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はやまるな逸まるな、この屋敷へ隠して置いたその幸内に逃げられたのは、拙者の落度おちどじゃ。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いいとも、盗まれるのはこっちの落度おちど、それを返してくれとはいわない」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)