膝栗毛ひざくりげ)” の例文
その夜はすわり相撲や腕押しで夜遅くまで大いに騒いだ。ところで、水戸から膝栗毛ひざくりげに鞭打って、我が一行にせ加わった三勇士がある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
晩年大河内子爵のおともをして俗に柘植黙つげもくで通ってる千家せんけの茶人と、同気相求める三人の変物ぞろいで東海道を膝栗毛ひざくりげの気散じな旅をした。
東海道中膝栗毛のこと 十遍舎ぺんしゃ一九の書いた『東海道中膝栗毛ひざくりげ』という書物をご存じでしょう。弥次郎兵衛やじろべえ、喜多八の旅行ものがたりです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
いや、しょうのものの膝栗毛ひざくりげで、いささか気分なるものをただよわせ過ぎた形がある。が、此処ここで早速頬張ほおばって、吸子きびしょ手酌てじゃくったところは、我ながら頼母たのもしい。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武士の大小をたばさみて雪隠せついんれる図の如きは、一九が『膝栗毛ひざくりげ』の滑稽とそのを一にするものならずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ブラ/\と面白おもしろき空想をつれにしてどて北頭きたがしら膝栗毛ひざくりげあゆませながら、見送みおくはててドヤ/\と帰る人々が大尉たいゐとしいくつならんの、何処いづこ出生しゆつしやうならんの、あるひ短艇ボートこと
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
山谷堀の船宿、角中かくちゅうの亭主は、狂歌や戯作げさくなどやって、ちっとばかり筆が立つ。号を十字舎じしゃ三九といっていたが、後に、十返舎ぺんしゃ一九いっくと改めて、例の膝栗毛ひざくりげを世間に出した。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焉馬、三馬、源内、一九等の著書を読む時に、われは必らず彼等のうちに潜める一種の平民的虚無思想のいとに触るゝ思あり。就中なかんづく一九の著書「膝栗毛ひざくりげ」に対してしかく感ずるなり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
金のしゃちほこがある尾張名古屋の土を踏んでいないなんぞは膝栗毛ひざくりげもすさまじいや、という一種の義憤から、木曾道中を、わざわざ道をげてこの尾張名古屋の城下に乗込んで来たのは
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
主なる俳優は市川八百蔵、市川寿美蔵、市川新蔵、中村伝五郎、嵐和三郎、中村勘五郎、中村鶴蔵、岩井松之助などという顔触れで、一番目狂言は「妹背山いもせやま」と「膝栗毛ひざくりげ」のテレコ。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やむをえず下乗して自分の膝栗毛ひざくりげで駈け去ったとチュボアの『印度風俗志ヒンズ・マナース』二に
かの田舎源氏いなかげんじ自来也じらいや物語、膝栗毛ひざくりげ八笑人はっしょうじん、義太夫本、浄瑠ママ本のごとき、婦女童子もこれを読んでよく感動し、あるいは笑い、あるいはかなしむもの、まことに言語・文章の相同あいおなじきゆえんなり。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
膝栗毛ひざくりげ』、平賀源内、京伝、黄表紙、落語等の或る種のもの等。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
膝栗毛ひざくりげだろう。ひとりでかい?」
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
木曾街道きそかいどう奈良井ならいの駅は、中央線起点、飯田町いいだまちより一五八マイル二、海抜三二〇〇尺、と言い出すより、膝栗毛ひざくりげを思う方が手っ取り早く行旅の情を催させる。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「谷殿、待て。——馬は仆れても虎之助の膝栗毛ひざくりげは、この通り達者ですぞ。先々でも、敵の名馬をってみしょう。槍の働きにかけても、貴殿におくれは取り申さぬ。覚えておかれよ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東海道膝栗毛ひざくりげもすさまじいや、尾張名古屋は城で持つと、雲助までも唄っていらあな、宮重みやしげ大根がどのくらいうめえか、尾州味噌がどのくらいからいか、それを噛みわけてみねえことにゃ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
労働者どもがそんなに威張り出したも誰のおかげだ、義理知らずめと詈っても取り合ってくれず、身から出たさびと自分を恨んで、ひもじく月を眺め、膝栗毛ひざくりげを疲らせた者少なくなかったは
手巾ハンカチあらつたの、ビスミツト、かみつゝんでありますよ。寶丹はうたん鶯懷爐うぐひすくわいろ、それから膝栗毛ひざくりげ一册いつさつ、いつもたびふとつておいでなさいますが、なんになるんです。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
喜多きた一人ひとり俯向うつむいて、改良謙信袋かいりやうけんしんぶくろ膝栗毛ひざくりげを、しまものの胡坐あぐらけた。スチユムのうへ眞南風まみなみで、車内しやないあついほどなれば、外套ぐわいたういだとるべし。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
本箱ほんばこをさがして、むらさきのおん姉君あねぎみの、第七帖だいしちでふすのも仰々ぎやう/\しからう。……炬燵こたつすべつてあるきさうな、膝栗毛ひざくりげぞく木曾街道きそかいだう寢覺ねざめのあたりに、一寸ちよつとはさんで。……
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
口誦くちずさむように独言ひとりごとの、膝栗毛ひざくりげ五編の上の読初め、霜月十日あまりの初夜。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶯懷爐うぐひすくわいろはるめいたところへ、膝栗毛ひざくりげすこ氣勢きほつて、熱燗あつかんむしおさへた。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)