脚気かっけ)” の例文
旧字:脚氣
すると、十二年の夏中から師匠は脚気かっけかかりました。さして大したことはないが、どうも捗々はかばかしくないので一同は心配をいたしました。
そこへ牛乳を入れて交ぜるのだがこれは上等にして最初から牛乳ばかりで煮て玉子を交ぜたのだ。僕は夏になると脚気かっけが起っていかん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
例えば米を精白にして食う風は年を追うて進み、しかも脚気かっけの原因をビタミンBの欠乏に発見したのはつい近頃の事であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「とんでもない、冗談にもそんな、私は脚気かっけの持病こそあるが、胆石病なんぞにはまだお眼にかかったこともありませんや」
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
同級のI君が脚気かっけで亡くなったので、われわれ数人の親しかった連中でその葬式に行った。南国の真夏の暑い盛りであった。
そしてOの蒼い顔を眺めた。Oはだいぶさきから脚気かっけで足をわるくしていたので、ぺたんこになって板敷の上に坐っていた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
たちまち丹造の欲がふくれて、肺病特効薬のほか胃散、痔の薬、脚気かっけ良薬、花柳病かりゅうびょう特効薬、目薬など、あらゆる種類の薬の製造を思い立った。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
前からございました脚気かっけがしきりに出てまいりまして、歩行が困難でございましたために御所へ上がることができませんで
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
東京で育ったこの弟は、お銀が笹村のところへ来てから間もなく、脚気かっけで田舎へ帰った。そしてそこで今日まで暮して来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ボロ船のウインチは、脚気かっけひざのようにギクシャクとしていた。ワイヤーを巻いている歯車の工合で、グイと片方のワイヤーだけがびっこにのびる。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
理由は、後になって、分ったことだが、将門は、すでにこの夏頃から、この水郷地方に多い風土病ともいえる“脚気かっけ”にかかっていたのである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意外にも、その上請をしないうちに、将軍は脚気かっけにかかって、わずか五年を徳川十三代の一期として、にわかに薨去こうきょした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
数百年の久しき、日本にて医学上の新発明ありしを聞かざるのみならず、我が国に固有の難病と称する脚気かっけの病理さえ、なお未だ詳明しょうめいするを得ず。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
中にも落第の投機家なぞは、どぶつで汗ッかき、おまけに脚気かっけを煩っていたんだから、このしみばかりでも痛事いたごとですね。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蒔岡まきおか方では、悦子が七月の末あたりから、去年ほどではないけれども又少し神経衰弱と脚気かっけの気味があって、食慾が衰え、不眠症を訴え始めたので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
肥りすぎているせいかと思ったが、あとで聞くと、当時の花袋氏は、長いこと、脚気かっけに苦しんでいたのだった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
持病の腎臓じんぞう脚気かっけのために、上の男の子の時も早期に人工出産したひろみは、二度めのときの産院へのゆきかえりを山形と一しょに元子の病室に立ちよった。
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
私は真剣であります。もっと若くて、この脚気かっけという病気さえ無かったら、私は、とうに志願しています。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
もっとも継子さんは前の年にも脚気かっけになつた事がありますから、矢はりそれが原因になつたのかも知れません。なにしろ、わたくしも呆気あっけに取られてしまひました。
其信心は何時から始まったか知らぬが、其夫が激烈げきれつ脚気かっけにかゝって已に衝心しょうしんした時、彼女は身命しんめいなげうって祈ったれば、神のお告に九年余命よめいさずくるとあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あまりのことに驚いて、脚気かっけの患者でも、頭痛の患者でも、容赦なく胸をあけさせて肝臓をしらべると、例外なく肝臓を腫らしている。疑いもなく肝臓炎の症状だ。
肝臓先生 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
理由わけ脚気かっけで帰って来たとのこと。成程母の予想にたがわず前垂姿まえだれすがたのかいがいしい様はどう見ても東京児とうきょうこである。しかし無口で、温順な気質は少しも昔とは異らなかった。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また、松坂丸という、南洋賢易の帆船は、乗組員が、みんな脚気かっけになって、動けなくなり、やっと三人だけが、どうやら甲板をはいまわって働き、小笠原島へ流れついた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
私は脚気かっけになって、三十間堀の家の二階に寝ていたが、銀座の裏通りの昼間というものは何という、のどかな、下町らしい静けさのあるところであろうと今でも思い出す。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
信州しんしゅう戸隠とがくし山麓なる鬼無村きなしむらという僻村へきそんは、避暑地として中々なかなか土地ところである、自分は数年ぜんの夏のこと脚気かっけめ、保養がてらに、数週間、此地ここ逗留とうりゅうしていた事があった。
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
余り突然だったので、故郷くにに急な用事でも出来たかとくと、脚気かっけだといった。ソンナ気振けぶりはそれまでなかったのだからうそとは思ったが、その日ぎりで来なくなってしまった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
其のうちにも丁度近くって伊香保と云う処はい処で、海面から二千五百尺高いと云う、空気は誠によく流通いたして、それから湯が諸病に利くと云う宜しい処で、脚気かっけに宜しく
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちっとも気がつかない内に、私は脚気かっけになってしまっていて、それに胃腸も根こそぎ痛めてしまったので、食事もこの二日ばかり思うようになく、魚のように体が延びてしまった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
すると彼奴め、兵を乗せる車ではない、歩兵が車に乗るという法があるかとどなった。病気だ、ご覧の通りの病気で、脚気かっけをわずらっている。鞍山站の先まで行けば隊がいるに相違ない。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
数学はできるまで塗板ボールドの前に立っているのを常としていた。余のごときは毎々一時間ぶっ通しに立往生をしたものだ。みんなが代数書を抱えて今日も脚気かっけになるかなど云っては出かけた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、かすかに甘えたいような魔術が読みとられた。津軽先生はペンを執って、再検査の用紙の胸部疾患の欄に二三行書込んで行った。「脚気かっけの気味もあるようですね」と先生は呟いた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
母の病気は脚気かっけだった。足が醤油樽しょうゆだるのようにむくみ、心臓を苦しがった。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
聖護院親王もとヨリソノ名ヲ聞ケリ。召シテ師トナス。先生ノ王門ニ遊ブヤ爵禄俸銭ハ辞シテ受ケズ。先生たまたま脚気かっけヲ病ム。勢はなはだ危篤ナリ。先生男典ニイツテ曰ク墳墓ノ異郷ニアルハ子孫ノ累ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
十四日嘉与吉が来た、彼は脚気かっけで足が痛むというので、途中宮川の小屋に立ち寄り、親父おやじに代ってもらう事に話して来たゆえ、明朝父の居を尋ねて行かるれば、小屋からすぐ間道かんどうを案内するという。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
夏の恐怖に物も言はぬ脚気かっけ患者のはうむりの列。
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
幼年学校とかの試験を受けに来た甥が、脚気かっけの気味で、一時国へ帰る前に、婆さんはその弟の臨終を見届けに、田舎へ帰らなければならなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、誰かが、たった一度、大きな声で言ったきり、みんな脚気かっけのように足を伸ばして、湯に行こうと先に立つ者もない。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春琴はこの時から怏々おうおうとして楽しまず間もなく脚気かっけかかり秋になってから重態におちいり十月十四日心臓麻痺しんぞうまひ長逝ちょうせいした。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
脚気かっけでは何人も死んだ。無理に働かせるからだった。死んでも「暇がない」ので、そのまま何日も放って置かれた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「慨世憂国の士をもって発狂の人となす、に悲しからずや」とは父がその木小屋にのこした絶筆であったという。父は最後に脚気かっけ衝心でこの世を去った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
戸田さんは毎年、秋になると脚気かっけが起って苦しむという事も小説で知っていましたので、私のベッドの毛布を一枚、風呂敷に包んで持って行く事に致しました。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
「そいつがしゃくに障ったから。——折から、焼芋(訂正)真珠を、食過ぎたせいか、私が脚気かっけになってね。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
脚気かっけの療治に来たのだと嘘をついて、暫くそこの厄介になっていましたが、その化けの皮もだんだん剥げかかって来たので、そこにも居たたまれなくなって……。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ああ、おれなんざ心配してもらうこたあねえよ、おのぶちゃんがいい薬を教えてくれてね、腹くだしのほうなんだが、それが治ったら脚気かっけのほうもおさまったよ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それだからこの温泉は脚気かっけによくきくのだと土地の人はいい、またその湯坪の片脇に、今でも石の小さな大師様の像を立てて、拝んでいるのだということであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
栂尾に居た年から八年程後、斯少し下流愛宕あたごふもと清滝の里に、余は脚気かっけを口実に、実は学課をなまけて、秋の一月を遊び暮らし、ミゼラブルばかり読んで居たことがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
強壮な人でも多量に用いると害になりますが脳の悪い人や肺病で血をく人やあるいは心臓の悪い人や妊娠中の婦人や脚気かっけ病人や眼病の人には絶対的に禁じなければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
母親に脚気かっけがあるので母乳はいっさい飲まさぬことにした。脂肪の多い妻は生ぬるい白い乳をしぼっては、張ってくると肩が凝ってならないと言って、陶物すえものにしぼり込んでは棄てていた。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大石橋から十里、二日の路、夜露、悪寒おかん、確かに持病の脚気かっけ昂進こうしんしたのだ。流行腸胃熱はなおったが、急性の脚気が襲ってきたのだ。脚気衝心の恐ろしいことを自覚してかれは戦慄した。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
が、眠れたことより、あれほど怖れていた注射が自分で出来て、しかも針の痛さも案外すくなかったことの方がうれしく、その後脚気かっけになった時もメタボリンを打って自分でなおしてしまった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)