きき)” の例文
それこれを信ずるのはじめ、目これを見、耳これをきき、心これを察し、その信ずべきをしりて、しかるのちはじめて疑わざるに至る。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
それはさうと、子供の鼻を食べさうにした魚のはなしをおききになつたことがあり升か。有升まいネ、わたくしは聞いたことがあるんですよ。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
エキステルは冷淡に笑ひてききゐたりしが、「汝たちもその図見にゆけ、一週がほどには巨勢君の『アトリエ』ととのふべきに」
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この時予はむしろ次なる先生の説をききたいというよりは、話を続けて先生を慰めようという方に多くの意味を持って、再び次のごとくいうたのである
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
壁の中など有るか無きかの命のほど、おいたる人、病める身などにてききたらば、さこそ比らべられて物がなしからん。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おのれもまたいはゆる門前の小僧習はざれども父よりききかじりたる事なきにあらざりしかば問はるるがままにいささか答ふる処ありしにぞおおいに青軒翁の信用を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ジョン、スチワート、ミルの死をききて神に感謝せし某監督の無情を怒れり、トマス、ペーンの臨終の状態を摘要して意気揚々たる神学者の粗暴を歎ぜり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
籠勝こもりがちな道子は面白いものを見もしききもしするような、物珍らしい、楽しみな、時めくような心持ここちもして、早や大巌山がほろに近い、西草深のはずれの町
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二郎は虫の音に暫時しばしききとれていたが、思わず立上って蔦葛の裡をそっと覗き込んで見たが、姿は見えなかった。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お座敷のお炬燵こたつに当りながらウトウトしておいでになる間に生れたのだそうで、夜が明けてから子供の泣き声をおききになるとお二人ともビックリなすったそうです。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一方、投獄された酋長達が毎日むちたれているという噂もあった。こうした事をききするにつけ、スティヴンスンは、自らを、何の役にも立たぬ文士として責めた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
王様のお耳に私の歌をおききに入れることは私の願つても及ばぬ幸福でございますけれど、今をりますところには悪いきつねがをりまして、私どもの命が危いのでございます。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それはあなたを連れても行くし、またわたしに出来るだけの事をしますから、まあ、おききなさい。
歓楽を追ふ若い細君の心は良人をつとの忠告もうはの空にきき流し、はては「何事もわたしの自由だ」などと云ふ。モリエエルはまり兼ねて「今日けふの園遊会での密会は何のざまだ」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先きのほどより、彼方かなたの木陰に身を忍ばせ、二匹の問答をききゐたる、一匹の黒猫ありしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一体は亀屋の亭主に御前の身の上あらましききて、失礼ながら愍然かわいそうな事や、わたしが神か仏ならば、こうもしてあげたいああもしてやりたいと思いましたが、それも出来ねばせめては心計こころばかり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貞之進はそれが冗談にききたくなく、又かれずに心懸しんけんに顔あからめ、困り者ですとタッタ一言の調子が合せられずに、虚実の闘いは一先消滅し、かえってそれがために陰然地を造って
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
『オイ信造』と言って急に声をひそめ『お前はだれかに何かききなかったか。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これほどにききてくれる人なし、唯予が口よりいひ出せば、肝をつぶしたる顔のみにて、善悪の差別もなく、鮒の泥に酔たるごとし、其夜此句したる時、一座のものどもに我遅参の罪ありと云へども
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
後で、それは日本から輸出したものだと云う事が分って大笑いになった。三越陳列所へ行って、それを調べて来たものは代助である。それから西洋の音楽が好きで、よく代助に誘い出されてききに行く。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつやらもうぐいすききこのおくに 落梧らくご
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ホラ鯨がいわしをおつかけるといふこともおききなすつたでせう。それからさめなどの様な大きい魚になり升と、随分人間をみ兼ねないのですよ。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
思ふ人を遠きあがたなどにやりて、あけくれ便りのまちわたらるゝ頃、これをききたらばいかなる思ひやすらんと哀れなり。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
会堂にありしものこれをききて大に憤り、たちてイエスをまちの外に出し投下なげおろさんとて、その邑の建ちたる崖にまで曳き往けり。(路加ルカ伝第四章二十八、二十九)
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
暫時しばらくして彼方かなたより、茶色毛の犬の、しかも一そくえたるが、覚束おぼつかなくも歩み来ぬ。かねて和主が物語に、かれはその毛茶色にて、右の前足痿えしとききしかば。必定ひつじょうこれなんめりと思ひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
さりとては忌々いまいまし、一心乱れてあれかこれかの二途ふたみちに別れ、お辰が声を耳にききしか、吉兵衛の意見ひし/\とあたりて残念や、妄想もうぞうの影法師に馬鹿にされ、ありもせぬ声まで聞しおろか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
在原夫人と照子嬢は散々に罵倒ばとうされて、無念の唇をみたまえば、この神聖なる慈善会を、けがし犯すは何等の外道げどうと、深川綾子も喫茶店より、第三区に赴きて固唾かたずを飲んでききたまえり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、おじいさんはきききました。龍雄たつおは、両手りょうてをひざにいてかんがえていましたが
海へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
法王がもしおききになったら、すぐに神聖な御権威で、10985
「訳はききさえすれば、いくらでも話すさ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
徳蔵おじがこんなうわさをするのをききでもしようもんなら、いつもしかとめるので、僕なんかはきいても聞流しにしちまって人に話した事もありません。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
おのが手作りの弁天様によだれ流して余念なくれ込み、こと三味線しゃみせんのあじな小歌こうたききもせねど、夢のうちには緊那羅神きんならじんの声を耳にするまでの熱心、あわれ毘首竭摩びしゅかつま魂魄こんぱくも乗り移らでやあるべき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三味さみも同じこと、こと西片町にしかたまちあたりの垣根かきねごしにききたるが、いと良き月に弾く人のかげも見まほしく、物がたりめきてゆかしかりし。親しき友に別れたるころの月、いとなぐさめがたうもあるかな。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さればとよよくききね、われ元より御身たちと、今宵此処にて邂逅めぐりあはんとは、夢にだも知らざりしが。今日しも主家のこものかれて、このあたりなる市場へ、塩鮭干鰯ほしか米なんどを、車につみて運び来りしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
あのかくの声をおききでないか。打物うちものの光をお見でないか。
「坊はねくおききよ。先におなくなりなすって、遠方の墓に埋られていらっしゃる方に、似てるのだよ。ぼうもねその方の通りに、寛大ゆったりして、やさしくッて、剛勇つよくなっておくれよ」
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
しきりにしやべり立升たてました。私は其言葉を一々ききとり。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)