眠気ねむけ)” の例文
旧字:眠氣
暗い夜ではあったが、年寄じみた子供の顔立を見分けることができた。眠気ねむけが襲ってきて、頭の中にはいらだたしい幻が通りすぎた。
婦人おんなだちも納得した。たちまち雲霧が晴れたように、心持もさっぱりしたろう、急に眠気ねむけれたような気がした、勇気は一倍。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも二時を聞いてしまうと、ようやく眠気ねむけがきざして来た。——お蓮はいつか大勢おおぜいの旅客と、薄暗い船室に乗り合っている。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それをるとどくになりましたから、かれは、ごくすこしばかりのすな監督人かんとくにんからだにまきかけました。と、監督かんとくは、たちまちのあいだ眠気ねむけをもよおし
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さては我をたすくるならんと心大におちつき、のちは熊とせなかをならべてふししが宿の事をのみおもひて眠気ねむけもつかず、おもひ/\てのちはいつか寝入ねいりたり。
従って何千人の画家がことごと気不症きぶしょうな仕事をつづけてしまうがために、画道は衰弱しつづけ世界は眠気ねむけを催すに至る。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
みんなは眼をこすりこすり起きたが、あたりのようすを見ると、眠気ねむけは一ぺんに吹きとんでしまったらしい。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
れるはなを見、飛ぶ蝶に眠気ねむけを誘われ、のどかな町の音響や、城普請しろぶしんのみの音など聞いていると、将士は無為むいに飽いて、ふとそんな錯覚すら抱くのだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手紙をかいてしまったら、いい心持ちになって眠気ねむけがさしたから、最前のように座敷の真中へのびのびと大の字に寝た。今度は夢も何も見ないでぐっすり寝た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戦ひに慣れた心が、何一つ波風の無い編輯局に来て、徐々そろそろ眠気ねむけがさす程「無聊の圧迫」を感じ出したのだ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
眠気ねむけざましのつもりで、台所に行って翌朝の米をいだり、朝から食べッ放しのままの食器などを洗って片づけてやったが、おかみさんはそれをいいことにして
その絵の前に立つと、魔法の世界でも眺めているような、なんともいえぬ奇妙な感じがひき起こされ、催眠術にでもかけられたように、ぼんやりした眠気ねむけに襲われる。
「もつとも、もし君がまだ眠気ねむけがささないといふのなら、もう一つ二つ蛇足を添へてもいいがね。」
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
自分は旅のつかれに眠気ねむけを催しながら、あまりの淋しさ静けさにかへつて神経を刺戟せられ、うつら/\と、無い事をも有るやうに、有る事をも無いものゝやうに、止め度もなく
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
以来は三度の食事も省略しょうりゃくするほどに時をおしみ、夜も眠らず、眠気ねむけがさせば眼に薄荷はっかまでさして、試験の準備に余念ない三千ちかくの青年が、第一高等学校の試験場にむらがり来たり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
眠気ねむけざましに私はこんな話を持ち出した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかし僕にのしかかって来る眠気ねむけと闘うのは容易ではなかった。僕は覚束おぼつかない意識のうちにこう云う彼の言葉を聞いたりした。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
野原のはらうええ、そよそよといてくるすずしいかぜに、こずえにまっていているせみは眠気ねむけもよおすとみえて、そのこえたかくなったり、ひくくなったりしていました。
ある男と牛の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて出窓の管簾くだすだれなかいた下で、はらンばひに成つたが、午飯おひるの済んだあと眠気ねむけがさして、くるりとひとツ廻つて、姉の針箱はりばこの方をつむりにすると、足を投げて仰向あおむきになつた。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その警官は、夜明けとともに、眠気ねむけにおそわれ、すこしうつらうつらしているところだった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『心配するな。実あ、てめえを叱りながら、おれも眠気ねむけに襲われて来たのだ』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は眠い時に本を読む人が、眠気ねむけに抵抗する努力をいといながら、文字の意味を判明はっきり頭に入れようと試みるごとく、呑気のんきふところで決断の卵を温めている癖に、ただうま孵化かえらない事ばかり苦にしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眠気ねむけがさせば、うろたへて寝る。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
帆村は、だんだんつかれを感じてきた。そしてついには、うとうとと眠気ねむけをもよおしてきた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、いかにやさしい、信仰深しんこうぶかいおかあさんでも、つかれれば、しぜんと眠気ねむけもよおし、ねむることによって、気力きりょく回復かいふくする、わかい、健康けんこう肉体にくたいぬしたることにわりはありません。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寝られぬまゝには更けぬ。時計一点を聞きてのちやうやく少しく眠気ねむけざし、精神朦々もう/\として我我われわれべんぜず、所謂いはゆる無現むげんきやうにあり。ときに予がねたるしつふすまの、スツとばかりに開く音せり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「旨いんだろう、何となく眠気ねむけを催したから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、いつとなしに、眠気ねむけをもよおしていねむりをするのでした。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
心地こゝちもいはれなさで、眠気ねむけがさしたでもあるまいが、うと/\する様子やうすで、きずいたみがなくなつてとほくなつてひたとくツついて婦人をんな身体からだで、わしはなびらのなかつゝまれたやうな工合ぐあひ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼女は、すこし待ちくたびれて、眠気ねむけもよおした。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その心地ここちもいわれなさで、眠気ねむけがさしたでもあるまいが、うとうとする様子で、きずの痛みがなくなって気が遠くなって、ひたとくっついている婦人おんなの身体で、わしは花びらの中へ包まれたような工合。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)