洋犬かめ)” の例文
「なんでえ、まるっきり洋犬かめじゃねえか。くそ面白くもねえ、そう言うお前はいってえ、何の臭いだか、え、彦、自身で伺いを立てて見なよ。」
此處でも籾をしてゐる牛部屋の前の廣場には、人影が見えないで、耳の垂れた洋犬かめ此方こつちを向いて大きな欠伸をした。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それをまたその人々の飼犬らしい、毛色のいい、猟虎らっこのような茶色の洋犬かめの、口の長い、耳の大きなのが、浪際を放れて、いわの根に控えて見ていた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何、若旦那はうもねえが、大事の洋犬かめられたので、力を落していなさるようだよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同時に葉茶屋の方のは、狆と思っていたが、何んだか洋犬かめのように見えて来て、どうも貧弱で、下品で、一緒に並んでいても「種」の方へは寄りつけないように見えて来ました。
此の頃は何方様どちらさまへ参りましても洋犬かめが居りまして、其の洋犬かめが御主人の使つかいをいたし、あるいは賊を見て吠える所で見ますれば、他人と主人とはちゃんと自然に其の区別を知って居りますので。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
眞黒まつくろつや洋犬かめが一ぴきあごけてねそべつて、みゝれたまゝまたをすらうごかさず、廣庭ひろには仲間なかまくははつてた。そして母屋おもや入口いりくち軒陰のきかげからつばめたりはひつたりしてる。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
女房は独り機嫌悪く、由緒よしなき婦人おんなを引入れて、蒲団ふとんは汚れ畳は台無し。鶏卵たまごの氷のと喰べさせて、一言ひとことの礼も聞かず。流れ渡った洋犬かめでさえ骨一つでちんちんおあずけはするものを。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洋犬かめめかけになるだろうと謂われるほど、その緋の袴でなぶられるのをけがらわしがっていた、処女むすめ気で、思切ったことをしたもので、それで胸がすっきりしたといつかわたくしに話しましたっけ。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同一おなじ色にコスモスは、庭に今さかりだし、四季咲の黄薔薇きばらはちょいとのぞいてももうそこらの垣根には咲いている、とメトロポリタンホテルは近し、耳れぬ洋犬かめは吠えるし、汽笛は鳴るし
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ざんぶと浪に黒く飛んで、螺線らせんを描く白い水脚みずあし、泳ぎ出したのはその洋犬かめで。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)