洋杖ステツキ)” の例文
茶話子は散歩をするのに、四つ辻へ来ると手に持つた洋杖ステツキなり蝙蝠傘かうもりがさなりを真直に立ててみてそれが倒れる方へ歩き出す事がよくある。
……「やあ」と洋杖ステツキをついてまつて、中折帽なかをればうつたひとがある。すぐにわたし口早くちばや震災しんさい見舞みまひ言交いひかはした。花月くわげつ平岡權八郎ひらをかごんぱちらうさんであつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
剛一は洋杖ステツキもて庭石打ちたゝきつゝ「だから僕は不平だと言ふんです、姉さんは少しも僕を信用して下ださらんのだもの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
其の考へが高じて終には洋杖ステツキで前の男の耳の後を撞突つつくが如き奇な事を演じ出す人も折節は世にある。それ等は皆氣の凝りを致した結果で、これも隨分困つたものである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小川おがはいて、草をもぢや/\やして、其縁そのふちひつじを二匹かして、其向ふがはに大きな男が洋杖ステツキを持つて立つてゐる所を写したものである。男のかほが甚だ獰猛に出来てゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
外出でかける時は屹度中山高ちゆうやまたかを冠つて、象牙の犬の頭のついた洋杖ステツキを、大輪に振つて歩くのが癖。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
千島ちしま事抔ことなどうはさしあへるを耳にしては、それあれかうと話してきかせたく鼻はうごめきぬ、洋杖ステツキにて足をかれし其人そのひとにまで、此方こなたよりゑみを作りて会釈ゑしやくしたり、何処いづくとさしてあゆみたるにあらず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
博士は胸算用むなさんようをしながら、やけ洋杖ステツキりまはした。洋杖ステツキが何かに当つたやうに思つてよく見ると、それは電信柱であつた。
旦那だんなふは、しま銘仙めいせんあはせ白縮緬しろちりめんおびしたにフランネルの襯衣シヤツ、これを長襦袢ながじゆばんくらゐ心得こゝろえひとだから、けば/\しく一着いつちやくして、羽織はおりず、洋杖ステツキをついて、紺足袋こんたび
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小川の家では折角下男に送らせようと言つて呉れたのを断つて、教へられた儘の線路伝ひ、手には洋杖ステツキの外に何も持たぬ背広扮装いでたち軽々かろがろしさ、画家の吉野は今しも唯一人好摩停車場ていしやぢやう辿たどり着いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
といつて、洋杖ステツキの倒れるやうにばたつとけかゝつたが、その儘顔を真青にして気絶してしまつた。
洋杖ステツキ紙入かみいれと、蟇口がまぐち煙草入たばこいれを、外套ぐわいたうした一所いつしよ確乎しつかおさへながら、うや/\しく切符きつぷ急行劵きふかうけん二枚にまいつて、あまりの人混雜ひとごみ、あとじさりにつたるかたちは、われながら、はくのついたおのぼりさん。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
洋杖ステツキを大きく振り廻し乍ら、目は雪曇りのした空を見詰めて、……。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
れば度胸どきようゑて、洒落しやれてる。……しつはいづれも、舞臺ぶたいのない、大入おほいり劇場げきぢやうぐらゐにんでたが、さいはひに、喜多八きたはち懷中くわいちうかるければ、かるい。荷物にもつはなし、おまけ洋杖ステツキほそい。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
吉野は思はず知らず洋杖ステツキに力を入れて身を支へた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)