注連縄しめなわ)” の例文
旧字:注連繩
で、手にあました浜松城はままつじょう武士ぶしや、石見守いわみのかみからうったえたものであろう、御岳神社みたけじんじゃ衛士えじたちが数十人、ご神縄しんじょうしょうする注連縄しめなわを手にもって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかで一ばんおおきな彼方むこう巌山いわやますそに、ひとつの洞窟ほらあならしいものがあり、これにあたらしい注連縄しめなわりめぐらしてあるのでした。
茶店の女房は旅人清作せいさくを引き摺るように物蔭に隠しました。間もなく金沢から来た一行八人の奉幣使が注連縄しめなわ張った唐櫃を担がせて近づきます。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すなわち標は我々の注連縄しめなわのシメ、また「紫野ゆきシメ野行き」の古歌に歌った紫野のシメと同じく堺を限って土地を占める方式を意味していた。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その場所には、主水正のはからいで、もっともらしく注連縄しめなわが張りめぐらされ、昼夜見はりの番士が立っている騒ぎ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
壇の上には新しい荒莚を敷きつめて、四隅には笹竹をたて、その笹竹の梢には清らかな注連縄しめなわを張りまわしてあった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
微暗うすぐらい土蔵の中には中央なかほどに古い長櫃ながもちを置いて、その周囲まわり注連縄しめなわを張り、前に白木の台をえて、それにはさかきをたて、その一方には三宝さんぽうを載っけてあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
松には注連縄しめなわ張りたり。こうく箱置きて、つちの上にまろむしろ敷きつ。かたわらに堂のふりたるあり。廻廊の右左稲かけて低く垣結いたる、月は今その裏になりぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
部屋へやの壁の上に昔ながらの注連縄しめなわなぞは飾ってあるが、御嶽山おんたけさん座王大権現ざおうだいごんげんとした床の間の軸は取り除かれて、御嶽三社をまつったものがそれに掛けかわっている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父の売ったものはこれは老人自身のひと趣向なので巾八寸位の蒲鉾板かまぼこいた位のものに青竹を左右に立て、松を根じめにして、注連縄しめなわを張って、真ん中にだいだいを置き海老えび
祠のうしろにあるしいの木のかげにむかし狐がんでいた穴が残っているばかりで、そこへ案内をされた津村は、穴の入口に今はさびしく注連縄しめなわが渡してあるのを見た。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
実にその労と申しては田圃でんぽ悪莠あくゆうを一回芟除さんじょするよりもなおやすきことにて、その器械と申すはわが邦俗ほうぞく新年門戸もんこかけ注連縄しめなわのごとく、羊毛にて製したるものにて
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
注連縄しめなわは家の入口に張るのだが、これをそうするのは邪気を払い不浄を避くるためである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
注連縄しめなわを引き囲らせた中に、御霊代を鎮った小さいお宮が、工場の数だけ飾ってあった。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
かどごとに立てた竹に松の枝を結び添えて、横に一筋の注連縄しめなわが引いてある。酒屋や青物屋のにぎやかな店に交って、商売柄でか、綺麗きれいに障子を張った表具屋の、ひっそりした家もある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
注連縄しめなわや御礼のたぐひをぶらさげた老若男女が社の鳥居をくぐつて行く。焚火の中へそれらの物を投げこんで戻つて行くのだ。ただそれだけのことである。何事によらず華やかな行事のすくない町だつた。
「謹んで聞けよ。楠木正成公くすのきまさしげこうの碑だ。見ろ、あの小屋にさえ、注連縄しめなわを張って、おれたちは、精進潔斎しょうじんけっさいしてやっているんだ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩屋いわや入口いりぐちには、神様かみさまわれましたとおり、はたたしてあたしい注連縄しめなわ一筋ひとすじってありました。
注連縄しめなわをはり、その中央に真新しい鍬を、土に打ちこんだ形に突きさして、鍬のに御幣を結び、前なる三方には、季節の海のもの山のものが、ところ狭いまでにそなえてある。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
従って『万葉』のいぐし立てみわすゑまつる云々の歌も、神事に箭を用いる一例と見るべく、この箭はやがて注連縄しめなわと同一の趣味に基き、神境を標示するの目的と見られようか。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
与吉は天日をおおう、葉の茂った五抱いつかかえもあろうという幹に注連縄しめなわを張った樟の大樹たいじゅの根に、あたかも山のと思うところに、しッきりなく降りかかるみどりの葉の中に、落ちて落ち重なる葉の上に
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
己は毎日毎日土蔵のわきで日なたぼっこをしていた。頭の上の処には、大根が注連縄しめなわのように干してあるのだな。百姓の内でも段々きて来やがって、もう江戸の坊様を大事にしなくなった。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は屋敷の前に近づいて、忍ぶように内を覗くと、軒に張り渡された注連縄しめなわが秋風に寂しくゆらいで、見おぼえのある大きい桐の葉がむしばんだように枯れて乾いて、折りおりにかさこそと鳴っていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見ると、露地ろじつづきの裏のすぐ彼方むこうに、注連縄しめなわの張り廻してある黒い鍛冶小屋の入口がすぐあった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからかぞえてももうずいぶんの星霜つきひつもったであろう。一たん神木しんぼくとなってからは、勿体もったいなくもこのとおみき周囲しゅうい注連縄しめなわりまわされ、誰一人たれひとりさえれようとせぬ。
町々辻々は車をとめ、むしろを敷いて、松、注連縄しめなわ歯朶しだ、ゆずり葉、だいだいゆず……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あおくなれ蒼くなれ、やっこ、居酒屋のしたみをめやあがって何だその赤い顔は贅沢ぜいたくだい、おれ注連縄しめなわを張った町内、てめえのような孑孑ぼうふらかない筈だ、どこの流尻ながしじりから紛れ込みやあがった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三戸さんのへ郡の村々では、ヌサといっても通ずるが、あるいはこれはヒサゲトシナという家もある。トシナは年縄で、東京でいう注連縄しめなわのことを意味し、ヒサゲは手に持って提げることである。
と——峠の絶巓ぜってんに、四方へ竹を立て、注連縄しめなわい、白木の壇をそなえた祈祷場いのりばが見えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足はわずかに木のこぶにささえ、からだは注連縄しめなわかれたまま、はりつけのように木のみきへしばりつけられた。目はもちろん、白いぬので、かくされていてかえってよいかも知れなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道理で小屋こそ粗末なものだったが、ひさしを見ると、注連縄しめなわがめぐらしてある。もう御霊みたまかたちはここに竣工して、あとは塚の地形とか壇石だんいし亀石かめいしのすえこみなどを待つばかりとなっていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく見ると、木のあたまに注連縄しめなわが懸けてある。これだなと思って見直した。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常に入口には注連縄しめなわの張ってある仕事場へ奔入ほんにゅうして——そこでは職人たちの手によって、諸侯からひきうけている正宗や村正や長船おさふねや——世に名だたる銘刀を始め、あらゆるやいばが研ぎぬかれている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)