明滅めいめつ)” の例文
時折、言問橋ことといばしを自動車のヘッドライトが明滅めいめつして、行き過ぎます。すでに一そうの船もいない隅田川すみだがわがくろく、ふくらんで流れてゆく。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ゴルドンの穏和おんわな顔、モコウの白い歯、次郎の悲嘆ひたんにくるる顔、そしてなつかしい父母の顔、いろいろの顔が走馬燈そうまとうのように明滅めいめつする。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
夜雨やうあきさむうしてねむりらず残燈ざんとう明滅めいめつひとり思うの時には、或は死霊しりょう生霊いきりょう無数の暗鬼あんきを出現して眼中に分明なることもあるべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
以来、彼女は、小娘ころの、たとえば蛍の明滅めいめつにも似たような心のときめきは呼びもどすまいとつとめていたのである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮れると同時に、異人いじんの中から一人が立ち上った。と、彼のからだがほたるいかのように光った。全身に、光の点々があちらこちらにあらわれ、それが明滅めいめつする。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けれども間もなくまったくの夜になりました。空のあっちでもこっちでも、かなみり素敵すてきに大きな咆哮ほうこうをやり、電光のせわしいことはまるで夜の大空の意識いしき明滅めいめつのようでした。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これ等はたがい違いに執拗しつこ明滅めいめつを繰り返すが、その間にいくつもの意味にならない物の形や、不必要に突きめて行くあだな考えや、ときどきぱっと眼を空に開かせるほど
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして、次の瞬間には、建物全体の電燈が、稲妻のように、無気味な明滅めいめつをはじめた。見物たちの不安な心臓の鼓動と、調子を合わせて、光と闇の目まぐるしい転換がはじまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
緑玉りょくぎょく、碧玉、孔雀石くじゃくせきの片がほろ/\とこぼれて、其数約二十余、葉末の露にも深さ一分の水盤の水にもうつって、光ったり、消えたり、うれしそうに明滅めいめつして、飛び立とうともしない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
電燈でんとうは二、三明滅めいめつしたが、せん切断せつだんされたとみえて、まったくえてしまった。うらおおきなさくらと、かしののほえるおとが、やみのうちでにものぐるいにたたかっているけもののうなりごえ想像そうぞうさせました。
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あとにはただ、寄せては返す潮騒が黒ぐろと鳴り渡って、遠くに松平肥後守様のお陣屋の灯が、漁火いさりびと星屑とのさかいに明滅めいめつしているばかり。女身を呑んだ夜の海はけろり茫漠ぼうばくとして拡がっていた。
海峡の灯台の明滅めいめつすわがおちつかぬ旅の心に
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
明滅めいめつする燈台の緑の光に、どんなに退屈して
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
閣上かくじょう源氏げんじには、一すい燈火ともしび切燈台きりとうだいあぶらいつくして、ジジジと泣くように明滅めいめつしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし人間の眼は、大体一秒間に十六回以上明滅めいめつするちらつきには感じがないのです。本当は明滅するんだけれど、明滅するとは感じないのです。映画でも、そうですよ。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、淡路島あわじしまの東海岸ぞいに、大阪湾の出口のほうへでていったが、やがて淡路の島影から、意味ありげに明滅めいめつする灯火あかりをみると、しだいにその上空へすすんでいった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明滅めいめつの一しゅん、十字架のうしろにかくれていたおぼろげなかげは、たしかに怪人、和田呂宋兵衛わだるそんべえ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きりににじんでその灯影ほかげほたるのように明滅めいめつしていたかと思うと、そのが横に一の字をく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杉戸、ふすま、すべての境を外された吉良家の屋内は、表から裏までずっと見通しの巨大な一箇のあなになった。そこに乱れあう人影と刃の光に、無数の灯が煤煙すすを吐いて、絶えまなく明滅めいめつする。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
短檠たんけいのあかりが、その横顔と、姿の半面を、明滅めいめつさせている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)