そろ)” の例文
まず海苔のりが出て、お君がちょっとしゃくをして立った跡で、ちびりちびり飲んでいると二、三品はそろって、そこへお貞が相手に出て来た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
みんな同年配の若者たちだから、こういういさましい行動には誘われやすい、きらっと刀が光ったとたんに、みんなそろって抜刀した。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのころ良人おっとはまだわこうございました。たしか二十五さい横縦よこたてそろった、筋骨きんこつたくまましい大柄おおがら男子おとこで、いろあましろほうではありません。
せめて父親の手前だけは機嫌きげんよくして、夫の処置に任せてくれたら、———それくらいは夫婦らしく、気をそろえてくれたらいいのに。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
東成禁酒会宣伝隊長谷口直太郎氏(三八)に報告、一同打ちそろって前記古谷氏宅に秋山君を訪れ、ここに四年ぶりの対面が行われた。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それから、三人そろって、芝居しばいを見に行きました。なにをやっていたか、もう忘れています。多分、碌々ろくろく、見ていなかったのでしょう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そちたちが心をそろえて助力をしてくりゃるならば、飛騨を取ることは何の雑作もないことじゃ、甲州を定むるのは、その後でよろしい
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
爐端ろばたもちいたゞくあとへ、そろへ、あたまをならべて、幾百いくひやくれつをなしたのが、一息ひといきに、やまひとはこんだのであるとふ。洒落しやれれたもので。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
己れは馴れた事だ信さんなんぞは足の裏が柔らかいから跣足で石ごろ道は歩けない、さあこれを履いてお出で、とそろへていだす親切さ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あのしろ着物きものに、しろ鉢巻はちまきをした山登やまのぼりの人達ひとたちが、こしにさげたりんをちりん/\らしながら多勢おほぜいそろつてとほるのは、いさましいものでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まして本篇などは、多用の片手間に忙ぎ書くもの故、多少前後そろわぬ処があってもかれこれ言うなかれと、蛇足と思えど述べて置く。
ようやくの事風呂敷包を外套がいとうの下へ入れて、店を出たら、番頭が声をそろえてありがとうと大きな声を出したのにはひやっとしました。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
パッシー通りで夫婦そろって食料品店で働き抜いた五十五、六の男の自然にれた声も秋風のなかにふさわしい。男は小金こがねめた。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いいですか、あの死体を発見した二人の証人は口をそろえて、死体がまだ温かかったと言っているのですよ。この点が肝腎かんじんなのです。
五階の窓:02 合作の二 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
察するところ、札をはずしてからまだ幾日も日が経ぬのでまだ名札をはずすだけはずして後をそろえず、そのままにしているのらしい。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
だが、なんといってもまず私たちの理想の家庭というのは、両親もそろい、子供も幾人かあるという、朗らかな団欒だんらんの家庭でしょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
はじめて弁当をもってきた末弟は、いつもうれしそうにしている顔をよけいニコニコさせて、兄貴のまえにまるいひざそろえて坐った。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
血を分けた姉弟きょうだいにそういう考えを持たせるというのはよくよくのことですよ。のっぴきならぬ証拠がそろいすぎるほど揃っていたのです。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そろへ與市にちがひなき由申ければ淡路守殿如何に勘兵衞其方儀かね怪敷あやしきかどこれあるにより取調とりしらべに及びし處海賊の與市に違ひなし眞直まつすぐに舊惡を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これは贅沢なシャレた食べ物の場合だが、いいきゅうりの漬けものを賞味しようと思ったら、やはりあとさきのそろったものを選ぶべきだ。
胡瓜 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
見わたすかぎり田圃に、黄色い花がかすみのように咲きそろっているのに気がつくと、トヨも突然気がたってきたように、たちどまる。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
戸に向ってせて骨ばったひざそろえて正坐する時には、忘れてはならぬ屈辱の思いが今さらのようにひしひしと身うちに徹して感ぜられ
(新字新仮名) / 島木健作(著)
もっとも水素の取り扱いにはれていたし、火花による点火装置などもそろっていたので、仕事にはすぐ取りかかることが出来た。
対岸の商船学校から、オールをそろえて短艇ボートぎ出してくるのが、家鴨とは反対に隅田川すみだがわの上流の方へむかってすべるように行く。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
というところまで考えて来ると、それっきり、どうしてもその先が考えられなかった彼は、枕木の上に両足をそろえてしまったのであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お前が浪人した上に、二人そろって扶持ふちに離れるようなことがあってはならぬからな——ま、これはここだけの話しじゃけれど」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
爾来じらい公判は引き続きて開かれしかど、最初の日の如く六十三名打ちそろいたる事はなく、大抵一組とこれに添いたる看守とのみ出廷したり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
少なくとも文化ぶんか文政ぶんせい頃まではさかのぼろうと思う。極めて多量に生産せられたそろいものであって、販売せられた分布区域もはなはだ広汎こうはんである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼らはそこで、なぜかそろって阿賀妻の方を見た。もっとも、ながくは見てはいなかった。視線をひるがえして含み笑いをして、そして云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
先驅さきがけひかり各自てんでかほ微明ほのあかるくして地平線上ちへいせんじやう輪郭りんくわくの一たんあらはさうとする時間じかんあやまらずに彼等かれらそろつて念佛ねんぶつとなへるはずなので
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
早く新聞を手にした児供こども達はいずれも天気予報を気にして見たらしく、十四と十二と七つとの三人がそろって新聞を持って来た。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「いや。……」と私は頭に手をやり乍ら、それでも晴々した気持になつて、そろつてゐるみんなの顔を見渡し乍ら、うれしさうに其処そこの座についた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
すると女は、男をその家の納戸なんどのような部屋へ案内した。外出用の衣裳いしょうが、いく通りもそろえてある。どれでも、気に入ったのを着ろという。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
久保田はしばらく立って、本の背革せがわの文字を読んでいた。わざとそろえたよりは、偶然集まったと思われる collectionコレクション である。
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
養女格の晴弥はるやと、出てからもう五年にもなる君丸というのが二人出ているだけで、後はみんな残っており、狭い六畳に白い首をそろえていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
頬ぼねのとがったのや、あごの角ばった顔を照らしている——札箱は、そのまん中に出されて、幾つもの手が、中の札をのなかにそろえてゆく。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ晩の八時過ぎに、山手線の停車場と丘向ふの公園とのどちらにも近い加納の家では、親兄弟そろつてにぎやかな食事をすませたところだつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
以上の三つのシンフォニーをそろえただけでも、モーツァルトの晩年の円熟した境地を知るに充分だが、さらに望む人のために
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「よくいらつしやいました。教師さま、お待ち兼ねでございました」と、云ひながら、下駄箱から、新しいスリッパを出してそろへてくれた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「相変らず何も御在ございません。お目にかけるようなものは。そうそうたしか芳譚ほうたん雑誌がありました。そろっちゃ居りませんが。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お君はニコ/\笑つたあとでさういふと、スルスルウと、太い幹をすべりおり、下に脱ぎそろへてゐた自分の下駄げたの上へ、両足をおろしました。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「ほう、竹田博士殺害事件か。それにしてはいやに静かだねえ。国際連盟は押入から蒲団ふとんでもだして、おそろいで一と寝入りやっているのかネ」
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
硯友社は御大おんたい紅葉を初めとし美妙といい漣といい美男のおそろいであったが、美貌をいったら川上眉山かわかみびざんは第一位であったろう。
あいちやんはなにからなにまで可笑をかしくてたまりませんでした、がみんそろひもそろつて眞面目まじめくさつてるので、眞逆まさか自分じぶんひとわらわけにもきませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
野外で、また山面で、また墓場で、また土堤どてなどで、花が一時に咲きそろい、たくさんに群集して咲いている場合はまるで火事場のようである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
海岸で網を引上げるために、網引く者どもの人数をそろえいろいろ差図手配する海人あまのこえが、離宮の境内まで聞こえて来る、という歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼方あちらから来ればこねくる奴が控えて居る。何でも六、七人手勢てぜいそろえて拈込ねじこんで、理屈を述べることは筆にも口にもすきはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一人一人の手にある骨牌かるたそろえ方を考え、ときどき持主が一枚一枚を眺める眼つきから、一つ一つの切札や絵札を数える。
飛石の上に両あしをそろへてきちんと立って四人つゞいて待ってゐるのは面白い。向ふの河原のを動かさう。影のある石だ。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
太郎右衛門が子供を拾ったといううわさが村中一杯にひろがりました。夕方になると村の神さんたちや子供たちがぞろぞろそろって捨児すてごを見に来ました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)