)” の例文
なかには、海豹、海驢あしか緑海豹グリーン・シールなど十匹ほどのものが、ひれで打ちあいウオーウオーとえながら、狭いなかをねかえすような壮観だ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかしほかの連中はみんな大人おとなしくご規則通りやってるから新参のおればかり、だだをねるのもよろしくないと思って我慢がまんしていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
えいと杖のさきねる内に、何の花か、底光りがしてつやを持った黄色いのが、右の突捲つきまくりで、すすきなりに、ゆらゆら揺れたと思うと、……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きな玉子二つでよく溶いて粉と混ぜて水でねますがその加減は饂飩の捏ねたのよりも柔いほどにして厚さ二分か三分位にのばします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あらゆる推理や想像をねくりまわしたあげく、トウトウ悲鳴をあげ初めて『脳髄が、脳髄の事を考えるとはコレ如何いかに』なぞと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
チベット茶と同時に一人一人に小麦粉をねてちょうど棒捩ぼうねじにしたような揚げ物と瓦煎餅かわらせんべいにした揚げ物を盆に一ぱいずつ分けるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
土間の入口で、阿爺ちゃんの辰さんがせっせと饂飩粉うどんこねて居る。是非ぜひあがれと云うのを、後刻とふりきって、大根を土間に置いて帰る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ごらんの如く、東昌府は、すっかりそこなッてしまった形だ。序戦に二度も失策をかさね、あげくに、おそろしい傑物がいた」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○其の手紙は候文と普通文とをね交ぜたやうな文體で先づ自分が「憐れなる片田舍の小學教師」であるといふ事から書き起してあつた。
歌のいろ/\ (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
家へ歸ると膳の上に瓶子のないのを憤つた父は、「もう生きてゐられん。酒がなけれや死んでしまふ。」と、狂氣のやうに駄々をねる。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ここまで来て籌子かずこ夫人から、天降あまくだり案が提出されたのだから、ね廻してしまったものには具合がよかったと、ことが運んだわけだった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
悦子それより早う帰ってルミーさんに会いたいねん、………と、駄々だだねたりしたが、それでも朝になってからいびきいてよく眠った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「一体これは何というざまだ!」とイワン・ドミートリッチはそろそろだだをねはじめた、「一歩あるけば、きっと紙屑かみくずを踏んづけるんだ。 ...
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こうなると、何とか因縁を付けたくなるのが人情で、死骸を引き取るとか、引き取らねえとか、駄々をねているのでしょう。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして下図が出来上るや否や彼は粘土のね上げに取りかゝつた。そしてその捏ね上げがすむと彼は青銅鎔炉にかゝつてゐた。
でなくもハナァがパンを燒いたりパイをねたりお洗濯せんたくをしたりアイロンをかけたりしてゐる時に自分達で御飯の支度をするつてこともね。
第一は四寸ばかりの高さの首なるがこは自分の顔を鏡に写しながら二日をついやしてねあげし者なれど少しも似ずと人はいふ。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
捏粉ねりこのパンをこう作れ——手と桶とをよく洗え。粉を桶に入れ、徐々に水を入れ、それを完全にねよ。よく捏ねおわったら形をつくり、蓋を
けれどもそれはまったく、作者に未知みちえざる驚異きょういあたいする世界自身じしん発展はってんであって、けっして畸形きけいねあげられた煤色すすいろのユートピアではない。
「えゝ、所がね、向うへ行って、卓一さんが又駄々をねましてね」おかみはしようがないという風に顔をしかめながら
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
彼はその気持から、夫人が好きだといった、季節外れのかにを解したり、一口蕎麦そばを松江風にねたりして、献立に加えた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ツクネルとはねあげることで、現在の餅や団子はつくねはしないが、本来が生粉の塑像そぞうであったために、今にその名前を継承しているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「泣いてやしねえ」と云って、さぶは腕で眼のまわりをこすった、「ねをやってるときに、粉が眼にへえったんだ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
粉をねて、その中へ乾杏子を押し込み、焼き皿に牛酪バタを塗って、キチンとお菓子を並べ、それから、おごそかな手つきでそれをテンピの中へいれました。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
従而したがって、その文章法なぞも、ひどくロジカルにこねくり廻された言葉のあやに由って、得体の知れない混沌をね出そうとするかのように見受けられる。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
おきなは、めじりしわをよせて笑った。ねていた土が、つぼの形になったので、やっと気が楽になったと云う調子である。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ね返した痕跡が割れ目を生じたころは、雪は一方にうずたかく盛り上られ、一方ではすくわれたようにげっそりとへこむ。
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
成程汗みづくになつて自分ばかり働いて、娘にはほんの上面うはつらばかり撫でるやうにねさせて人前を取繕とりつくろつて置く。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
その食事も、伸子は止むなく坐らされ、よく一人で考えていた隅で所詮は一つの返答をね廻している間に、佃が自分で用意するのであった。食べ終る。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
思わず理屈をねたが、この時は理屈どころではない。疲れて足を引摺ひきずり引摺り、だんだん山道に差し掛かる。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
このまま縦令たとい露西亜の土となろうとも生きて再び日本へは帰られないと駄々だだねたは決して無理はなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と、日本国民は、建国二千六百年の、光輝こうきある国史こくしの上に、これはまた決して書きたくはない文句を、血と涙と泥をねあわせて、しるさねばならなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その上スタニスラウスは一語毎に先づ塵払で払つて、一応ね直して口から出すやうにしてゐるのである。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
お前は強いて頭を働かして神を想像していたに過ぎないのだ。即ちお前の最も表面的な理智と感情との作用で、かすかな私の姿を神にまでねあげていたのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
またはこの制限を設けざれば浮浪の徒また政権に与るの危険ありとかいう類の理屈をねなければならぬ。
小麥粉こむぎこすこしほれたみづねて、それをたまにして、むしろあひだれてあしんで、ぼういてはうすばして、さらいくつかにたゝんでそく/\と庖丁はうちやうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
実は文士だと言いたかったのだが、愚迂多羅ぐうたらは理窟をねるばかりで少しも書かないから仕方がない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうなると道庵は面白半分に、駄々をねる気になって、足をバタバタさせながら、行かじとします。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうかあの倉のなかにある方々の土を加茂川の水でねて、その中へわしの屍骸を入れて一つ土団子つちだんごをこしらへてくれ、そしてそれを三よさ栗田あはたかまで焼いた上
見ると、お婆さん達はねた餅を手頃にちぎつては、それを掌で薄べたく圓く延ばして居りますから
己の食ふパンを焼うとして小麦粉をねてゐたパン屋も、己の着る衣類を縫つてゐた為立物師も、己にそのパンを食はせよう、その衣類を着せようと云ふより外には
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
滅多矢鱈にねまぜたもので、それでも温かいうちなら何とか味があるだろうという代物なのである。
古びた素木しらきのテエブルに大きな木の盆を据えて、黄ばんだ麦粉をしきりに両手でねかえしていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そして、「むつヶ敷げに理窟をねに來たのぢやらう。用事だけ訊いて成るべく返すやうにせい。」
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
丸太を組合せて骨を造り、赤土をねて壁を塗り、近所から麦藁を譲つてもらつて、屋根をいた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
パシエンカは乾葡萄を入れた生菓子を拵へようと思つて、粉をねてゐた。これは昔父のゐた時代に置いてゐた料理人が上手に拵へたので、それを見習つてゐるのである。
あらゆる窓から覗いていた。風にあおられているあらゆる形ばかりの衣服を著ながらうろうろしていた。彼等をね潰した碾臼は、若者を碾いて老人にする碾臼であった。
鳶頭かしらから手切の相談さ、ところでわしもダヾをねようとア思ったんだが、イヤ/\左様でない
廊下は焼き立てのパンと、ねたパン粉との匂がしてゐて、空気は暖で、むつとしてゐる。
手だけは尖細さきぼその、あれが圓錐型テーパがたとでも云ふでせう、非常に美しい手をして居ました——米利堅粉をねて、始めてコロツケを造つて喰はせて呉れたことを今でもおぼえて居る。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)