拇指おやゆび)” の例文
中指の爪が一番はやく伸び、拇指おやゆびのが一番遅い。両手をくらべると、右手の爪が左手のよりも幾分はやく伸びる慣はしになつてゐる。
大統領は膝に肘をつき、拇指おやゆびと人差指で大きな顎をささえるようにしながら、持前のふてぶてしい顔つきになってスチムソンを見た。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
で、伊織は、武蔵にならって、前へ出ようと努めるのだったが、武蔵の眼を見ていては、到底、足の拇指おやゆびも、にじり出せないのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガヴローシュは軽蔑しきったようなふうで、その仕返しとしてはただ、手を大きく開きながら拇指おやゆびの先で鼻の頭を押し上げてみせた。
花の落ちた小枝をっているうちに気が付いて、よく見ると、大きさはやっと拇指おやゆびの頭くらいで、まだほんの造り始めのものであった。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お里は、よく物を見てから借りて来たのであろう反物を、再び彼の枕頭に拡げて縞柄を見たり、示指さしゆび拇指おやゆび布地きれじをたしかめたりした。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
右の拇指おやゆびの爪の垢から胡椒こしょうの粉が発見されたんですけれど、これは今あなたのお話しになった、解剖の結果を裏書きしたにすぎません。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
甲斐は右の手をあげ、拇指おやゆびの爪で中指の爪を静かにこすった。七十郎は、その世評は貴方が自から作ったものだと思った、とつづけた。
帳場に横向きになって、拇指おやゆびの腹で、ぱらぱらと帳面を繰っていた、ふとった、が効性かいしょうらしい、円髷まるまげの女房が、莞爾にっこり目迎むかえたは馴染なじみらしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「一つは右足の拇指おやゆびがすこし短いのだ。よく見ると、それは破傷風はしょうふうかなんかを患って、それで指を半分ほど切断したあとだと思う」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
拇指おやゆびから起って小指に終る繊細な五本の指の整い方、絵の島の海辺で獲れるうすべに色の貝にも劣らぬ爪の色合い、珠のようなきびすのまる
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と云われ源次郎は忍び姿の事なれば、大小を落しざしにして居りましたが、此の様子にハッと驚き、拇指おやゆびにて鯉口を切り、ふるえ声を振立ふりたって
「金剛石でございましたら、私もそれの高価のことを、以前に承わりましてござります。拇指おやゆびの先ほどの大きさで、幾千両と申しますことで」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と等分に二人へ云いかけながら、先ず青木の脚の繃帯をいた。色の黒い毛ムクジャラのすねのあたりを、拇指おやゆびでグイグイと押しこころみながら
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
八五郎のガラッ八は、拇指おやゆびまむしにして、自分の肩越しに入口の方を指しながら、日本一の突き詰めた顔をするのでした。
ときどき手を休めて、左手の拇指おやゆびを帯にはさめ、充血して表情を忘れた顔をまつすぐに挙げて、冷めたい庭先を見てゐることがあるかも知れない。
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
すみの方で、立膝たてひざをして、拇指おやゆびつめをかみながら、上眼をつかって、皆の云うのを聞いていた男が、その時、うん、うんと頭をふって、うなずいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
まだ暖みの少い早朝の澄んだ光線を背中にうけてその窓框に数人押し並び、その中の一人が靴下の中でしきりに拇指おやゆびを動かしながら何か説明している。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此方こちらは真暗、向うにはあかりがついているので、目隠めかくしの板に拇指おやゆびほどのおおきさの節穴が丁度二ツ開いてるのがよく分った。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
死力をめたる細き拇指おやゆびに、左眼ゑぐられたる松島は、いたみに堪へ得ぬかほわづかもたげつ「——秘密——秘密に——名誉に関はる——早く医者を、内密に——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
さて、君の左の人差し指と拇指おやゆびの間の皮膚の筋を見て、君が採金地の株を買わなかったと云うことが、あまり首をひねりまわさないうちに解ったと云うわけさ
あの首のくゝれたやうな独特の形をしたびんの口を塞いでゐる円い硝子玉ビーだま、それを拇指おやゆびでぐつと押すと、ポン・シユッと胸のすくやうな快音を立てて抜ける
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
大きさは両手の拇指おやゆびと人差指で大幅に一囲みして形容する白牡丹ぼたんほどもあろうか。それが一つの金魚であった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
五分刈ごぶがりは向き直って「あの声は胸がすくよだが、惚れたら胸はつかえるだろ。惚れぬ事。惚れぬ事……。どうも脚気らしい」と拇指おやゆび向脛むこうずね力穴ちからあなをあけて見る。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると、なるほど、拇指おやゆびと人差指の境のところに、一センチくらゐはなれて、小さい疣が二つありました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
花房は佐藤にガアゼを持って来させて、両手の拇指おやゆびを厚く巻いて、それを口にし入れて、下顎を左右二箇所で押えたと思うと、後部を下へぐっと押し下げた。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
拇指おやゆびあばらの所で背負帶に挾んで兩肘を張つてうつむきながらそろそろと歩く。榾は五尺程の長さである。横に背負つて居るのだから岩角へぶつつかりさうである。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
拇指おやゆびよりもちいさな豆つぶのだんなさま、赤いおわんにのって海へでるおりこうさん、気ちがいうまにのってめちゃくちゃにかけてゆく気ちがいの親子、そうした
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
第3図は人品いやしからぬ老婦人の足を写生したものであるが、このように太い紐がついていて、その前方が拇指おやゆびとその次の指との間に入るように工夫されている。
とよぶとお国さんは玄関の障子を細めにあけ拇指おやゆびを鼻のさきへだしてさも怖さうに手をふつてみせる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
お団子を半分にして、それを拇指おやゆびでおしつけたように、押しつけたところがピタンとしている。大きな鼻の穴が、たてに二つかきのたねをならべたように上をむいている。
手の裏には、四本の指のあとのような紫の痕があって、こぶしの上には細い拇指おやゆびの痕らしいものもあった。
右手の拇指おやゆびと人さし指で、角のところをつまんでいた二枚の紙幣を、相手のほうへ差し出して見せたかと思うと、いきなり荒々しく引っつかんで、しわくちゃにしながら
但右の養蚕家入門中、桑を切るとて大きな桑切庖丁を左のてのひら拇指おやゆびの根にざっくり切り込んだ其疵痕きずあとは、彼が養蚕家としての試みの記念きねんとして今も三日月形に残って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と右の拇指おやゆびのない水夫がいった。かれは喧嘩けんかが自慢で、もし喧嘩に負けたら、指を一本ずつきりおとすんだと広言した。ところがある日、海蛇うみへびと大げんかをやって負けた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
4 悪魔の拳フィガ・ド・デアボ。これは有名な葡萄牙ポルトガルの国産品で、やはり迷信的な厄払いのひとつだ。振りこぶしの人さし指と中指のあいだから拇指おやゆびのあたまを覗かせたもので、形は小さい。
屋外に焜炉こんろを置いて、室の壁にあけた小穴から鏝を通しては灼熱しゃくねつする。さて右足の拇指おやゆびに焼鏝のてがい、右手で鏝を、左手で竹を動しながら、たくみにす早く絵附けをする。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
仕方がないから渋川流しぶかわりゅうという訳でもないが、わが拇指おやゆびをかけて、ぎくりとやってしまった。指が離れる、途端に先主人せんしゅじん潮下しおしもに流れて行ってしまい、竿はこちらに残りました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鉛筆の中ほどを、小指と薬指との間に挾んで、それを斜めにしたのを、拇指おやゆびと人差指とではさんで書くそうだがね。そういった訳で、夫人の筆蹟はちょっと真似られんそうだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
まずはじめに私の国のやり方によって誓い、次にこの国のやり方で誓わされたのですが、それは右の足先を左手で持ち、右手の中指を頭の上に、拇指おやゆびを右の耳朶みみたぶにおくのでした。
組みあわした手では彼の拇指おやゆびがいどみ合った。虚々実々のたたかいをはじめていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
此噐の用はいまだ詳ならざれどこれを手に取りて持ち加減かげんより考ふるに、兩方りやうはうの掌を平らにならべ其上に此噐を受け、掌をひくくして噐のそこに當て、左右の拇指おやゆびを噐の上部にけて噐をさへ
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
猛犬にあいたるとき、右手の拇指おやゆびより、うしとらと唱えつつ順次に指を屈し、小指を口にてかみ、「寅の尾を踏んだ」と言うときは、いかなる猛犬も尾を巻きて遁走とんそうするという。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
銀子はまた同じうちから早い口がかかり、行ってみると、女中が段梯子だんばしごの上がり口へ来て、そっと拇指おやゆびを出して見せ、倉持の母がって話をしてみたいと言って、待っていると言うのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
はつと見るとその人には兩足の指が拇指おやゆびを殘して他は一本も無いのである。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
右の拇指おやゆび示指ひとさしゆびとにて丸い輪を拵へ「お金が欲しうございます」といふ。
拇指おやゆびと人差指の多忙な債券調査、海綿の音高い悲鳴、野蛮な響きを撒きちらす鋏、ね返るスタンプ、わらいごえ、ナンバアリングの律動的リズミカルな活動、騒々しい帳薄の開閉、大仰な溜息、金額を叫ぶソプラノ
罠を跳び越える女 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
みんなはになつてすわつて、自分の籠の中から、なるべく大きいのをり出して、その皮を前歯でむくと、中のしぶ拇指おやゆびつめや、前歯でとつて、とてもいゝ音をさせて、カリ/\と食べだしました。
栗ひろひ週間 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
ビッデンハムでは九月二十二日ごとに白兎を緋の紐で飾り運んでアガサ尊者のヒムンを歌い村民行列す。未婚の女これに遇わば皆左手の拇指おやゆびと食指を伸して兎に向い処女よ処女よかれをここに葬れと唱う。
垣根の真中から不意に生ひ出して来た野生の藤蔓ふぢづるが人間の拇指おやゆびよりももつと太い蔓になつて、生垣を突分け、その大樹の松の幹を、あたかとりこを捕へた綱のやうに、ぐるぐる巻きに巻きながらぢ登つて