押遣おしや)” の例文
善吉も若い者であるから、こんな話に一種の興味を持つて、店の火鉢を二人の前へ押遣おしやると、の男もたうとう思ひ切つて店に腰をおろした。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
潮風で漆のからびた、板昆布いたこぶを折ったような、折敷おしきにのせて、カタリと櫃を押遣おしやって、立てていたかかとを下へ、直ぐに出て来た。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小山古き皿を押遣おしやりて新しき皿を引寄せ「これは何だね」主人「それも牡蠣料理だ、牡蠣料理中第一等の美味うまいものでオイスタークリームという。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
屍体検案書の書込みの方は後廻しにする決心をしたらしくソッと横の方へ押遣おしやって、屍体台帳の方を繰拡げますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さりとてこの大事だいじ生命いのちつなを、むさ/″\海中かいちう投棄なげすてるにはしのびず、なるべくていすみほう押遣おしやつて、またもや四五にちまへのあはれな有樣ありさま繰返くりかへして一夜いちやあかしたが、翌朝よくあさになると
飯櫃おはちの蓋を取つて、あつめ飯の臭気にほひいで見ると、丑松は最早もう嘆息して了つて、そこ/\にして膳を押遣おしやつたのである。『懴悔録』をひろげて置いて、先づ残りの巻煙草まきたばこに火を点けた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「然し自意識が発達すると云ふ事は、他人の間から自己を独立させると云ふ事になる、またとらはれた自分をいかさうと云ふ事にもなる。」と膳を押遣おしやつて、心静かに落着いて煙草をふかして居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
そんなわけで、これまでたまたまにっていた少女と毎日顔を合わせるようになる。禍機かきはそこにひそんでいた。盲目の性慾は時を得顔にその暗い手を伸して、かれを未知のすさんだ道に押遣おしやった。
「大変遅くなって……」と言って、座敷と居間との間のしきいの処に来て、半ば坐って、ちらりと電光のように時雄の顔色かおつきうかがったが、すぐ紫の袱紗ふくさに何か包んだものを出して、黙って姉の方に押遣おしやった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さわやかな心持に、道中の里程を書いた、名古屋扇も開くに及ばず、畳んだなり、肩をはずした振分けの小さな荷物の、白木綿のつなぎめを、押遣おしやって
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血気の男二人に、突き戻され、押遣おしやられて、強情なお杉も漸次しだいあと退すさったが、やがて口一杯にふくんだ山毛欅ぶなの実を咬みながら、市郎の顔に向ってふッと噴き付けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何時いつまでかんがへてつたとて際限さいげんのないことつは此樣こんなかすのは衞生上ゑいせいじやうにもきわめてつゝしことおもつたのでわたくしげん想像さうぞう材料ざいりようとなつて古新聞ふるしんぶんをば押丸おしまろめて部室へや片隅かたすみ押遣おしや
私はそっ押遣おしやって、お三輪と一所に婦人だちを背後うしろかばって、座を開く、と幹事も退いて、私に並んでたてになる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言葉つきなら、仕打なら、人の息女とも思わぬを、これがまた気に懸けるような娘でないから、そのまま重たげに猟犬のかしらうしろ押遣おしやり、顔を見て笑って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「神月梓というんだよ。」といいながら手を向うへ押遣おしやったが、ほっと息をいて俯向うつむいた。学士はここで名乗った名がいたくもけがれたように感じたのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いて突立つッたったその三味線を、次のの暗い方へそっ押遣おしやって、がっくりと筋がえた風に、折重なるまで摺寄すりよりながら、黙然だんまりで、ともしびの影に水のごとく打揺うちゆらぐ、お三重の背中をさすっていた。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百合 (続いて出で、押遣おしやるばかりに)どうぞ、お立ち下さいまし。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外套を押遣おしやって、ちと慌てたように広袖どてらを脱ぎながら、上衣の衣兜へまた手を入れて、顔色をかえてしおれてじっと考えた時、お若は鷹揚おうようも意に介する処のないような、しかも情のこもった調子で
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海野は感謝状を巻き戻し、卓子ていぶるの上に押遣おしやりて
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪枝ゆきえかたつて、押遣おしやるやうにつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「大丈夫? そうさ、また大丈夫でなくったって誰が何というものか、酒はお前さんが飲むんじゃあないか、そしてお前さんが酔ったんだろう、芸者の蝶吉が酒に酔ったって、私にゃあ甘くも辛くもない、何も難しいことはありません。」とむこう押遣おしやると
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)