成行なりゆき)” の例文
娘売らぬ親を馬鹿ばかだとは申しがたそろへども馬鹿ばか見たやうなものだとは申得まうしえられそろ婿むこを買ふ者あり娘を売る者あり上下じやうげ面白き成行なりゆきそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「待った。機長、はじめから戦うつもりでいたんでは、こっちの不利となりますよ。しばらく成行なりゆきにまかせてみようじゃないですか」
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此れから自分の經驗しやうと云ふ戀の成行なりゆきがどんなであるのか分りもせぬ先から、近松によればそれは身の破滅、死の導きであり
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
あなたは決して自分のなすった事の成行なりゆきがどうなろうと、その成行のために、前になすった事のせめを負わない方ではありますまい。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
心を苛責の状態ありさまにとむるなかれ、その成行なりゆきを思へ、そのいかにあしくとも大なる審判さばきの後まで續かざることを思へ 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
参木は昨夜以来の彼自身の成行なりゆきを忘れてしまった。彼は雨の中を秋蘭のいうままにただ馳けたのであった。彼は医院へ馳け込んだ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
民権論者とて悉皆しっかい老成人に非ず。あるいは白面はくめんの書生もあらん、あるいは血気の少年もあらん。その成行なりゆき決して安心すべからず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
殺せし事菊が仕業しわざに非ず自害に相違なし去ながら何故に斯る成行なりゆきに成しやらん汝等思ひあたることはなきかと尋問たづねらるゝに家主其外は言葉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いや、すつかり、あべこべだ。平次は、辰五郎を許しては困る、縛つたまゝで、もう少し成行なりゆきを見て貰ひ度いと言ふのだよ」
翁はこの時既に法政騒動の成行なりゆきと、楽堂氏の性格に関する概念を掴んでいたらしい事を、この簡単な問答の中から推測し得べき理由がある。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
従って余の博士を辞退したのは徹頭徹尾てっとうてつび主義の問題である。この事件の成行なりゆきを公けにすると共に、余はこの一句だけを最後に付け加えて置く。
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その話の成行なりゆきうして歩いてゐ乍らも心に懸らぬではない。否、それが心に懸ればこそ、靜子は種々の思ひを胸に疊んだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
𤢖はの雪の夜に、何処どこからか若い女をさらって来たのであろう。お葉はいよいよ驚きあやしんで、なおひそかに成行なりゆきを窺っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「僕も初めは君を恨んだけれど、考えて見ると、僕は豊子さんを貰う資格がない。斯うなって見ると、斯うなるのが自然の成行なりゆきのように思われる」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それに、昨日から、僕は、話を半分聽いて、その成行なりゆきを聞きたくて仕方のない人の、いら/\した氣分を味ひました。
行末の事は成行なりゆきに任せるとして今度は何でもお代先生の婚礼を避け給えと無理遣むりやりに大原君を説伏せてそれから外の人たちへも洋行の一件を申込んだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もっとも、風説にすぎぬかもしれないが、去年以来の成行なりゆきを思えば、全然風説のようなことがないとも言われない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
このもつれは後年まで続き、ついに四代家綱、五代綱吉などの霊を上野寛永寺へ持ってゆく成行なりゆきとなったのである。
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それへ参って若様に貰い乳をして育てゝ居るという情ない成行なりゆき、此の通り無茶苦茶に屋敷の潰れた跡へ、帰って来たのは新五郎と云う惣領でございますが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「喜代ちゃん、もう泣いたり笑ったり、つまらないことは止そうじゃないか。そんな仲でもあるまい。何もかも成行なりゆきに任せるさ。そして酒だ。酒を飲もう。」
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いや先刻せんこくかんがへがあるとは云つたが、別にかうとまつた事ではない。お前方二人は格別の間柄だから話して聞かせる。おれは今暫く世の成行なりゆきを見てゐようと思ふ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いやらん、もうぬまで、ズボンや、チョッキ、長靴ながぐつにはよういのかもれん。しかし奇妙きみょう成行なりゆきさ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
父から叔父さんへ送った返事のことも姉から聞いて、仕方の無い自然の成行なりゆきと思うと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしは数馬かずまうらんだのも、今はどうやら不思議のない成行なりゆきだったように思って居りまする。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いやだな。美和子のことなんか、成行なりゆきにまかせて、美沢さんに会うことなんか、よそうかしら)
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは今までこのことの騒ぎが、いったい何に原因するのだかわからずに騒いでいた連中が、仰いで見れば、ともかくもその成行なりゆきが見られるようになったからであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつのよいかにして賜はることを得べきなど思ひいづるまゝに有しこと恋しく、世の人のうらめしう、今より後の身心ぼそうなど取あつめて一つ涙ひぬものから、かく成行なりゆきしも誰ゆゑかは
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
部屋の前を通越とおりこして台所へ行くか、それとも万一ひょっと障子がくかと、成行なりゆきを待つの一ぷんに心の臓を縮めていると、驚破すわ、障子がガタガタと……きかけて、グッとつかえたのを其儘にして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
別れて今のさいと結婚してのちしづ成行なりゆきき銀之助は全く知らなかつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そしてポルジイの事を知っている人々のあいだには、ドリスと切れて、身分相応な結婚をするそうだという噂が立った。伯爵家の両親がこの成行なりゆきに満足して、計略の当ったのを喜ぶことは一通りでない。
かく成行なりゆきぬる事とせめ給ふ、家財をうりたりとて、実業につきたりとて、これに依りて我が心のうつろひぬるものならねど、おいたる人などはたゞものゝ表のみを見て、やがてよしあしを定め給ふめり
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
お島はその時も、おぼれてゆく自分の成行なりゆきに不安を感じた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
勝負は今だ、成行なりゆきは世間が知っている。
極めて自然な成行なりゆきであった。
日本のやきもの (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
声をたてるわけにもいかないので、ぼくはだまってそのまま成行なりゆきにまかせるよりほかなかった。不幸なる幸福! 少々うしろめたい幸運!
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
でも、土瓶の中に毒を投り込んであるのを知り乍ら、默つて成行なりゆきを見て居たこの私も、主殺しの罪はまぬかれやうは御座いません。
ばくに就かれた前後の事情を聞き伝えると同時に「事敗れてのちに天下の成行なりゆきを監視する責任は、お前達少年の双肩に在るのだぞ」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
宗助そうすけ過去くわこいて、こと成行なりゆきぎやくながかへしては、この淡泊たんぱく挨拶あいさつが、如何いか自分等じぶんら歴史れきしいろどつたかを、むねなか飽迄あくまであぢはひつゝ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
前後の事情をしって居るから、忠臣義士の成行なりゆきを見るとツイ気の毒になって、意気地なしのように腰抜のように、思うまいとおもっても思われてたまらない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と力なく樹を降り、こん尽きて其の儘其処そこへ気絶いたしました。お話分れて、此方こちらは信州二居ヶ峰、中ノ峰の谷間たにあいの熊の穴に落ちましたお町が成行なりゆきでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いやらん、もうまで、ヅボンや、チヨツキ、長靴ながぐつにはよういのかもれん。しか奇妙きめう成行なりゆきさ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ふきつゝはなしかくれば長庵はわざと目をぬぐひ涙に聲をくもらせてひんの病は是非もなし世の成行なりゆき斷念あきらめよ我とてはたくはへ金は有ざれども融通ゆうづうさへ成事なら用立ようだつ遣度やりたしと手紙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私も何だか気の毒なようにも思ったので、詮議せんぎずそのままにしてしばらく成行なりゆきうかがっていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
次にはまた別の人と住んで暮すといふことがあなたには殆んど惡いことにはお見えにならなかつたのではございませんか? あなたはまるで何でもないことの成行なりゆきのやうに
節子のために再婚を断念して掛った岸本がこうして家庭というものを出てしまうということは、そして旅人の生活に帰って行くということは、むしろ彼には当然の成行なりゆきと思われた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母も叔母も何とも言つてくれぬだけ媒介者との話の成行なりゆきが氣にかゝつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
以上の成行なりゆき筆紙にてニュアンスを尽しがたく候がざつと如斯かくのごとくに候
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
平次も、暫くその意見に任せて、成行なりゆきを見ました。が、お町を殺した下手人はどうしても判らず、桐の空箱の行方もそれつ切りわかりません。
こういうと何だか現在に甘んずる成行なりゆき主義のように御取りになるかも知れないが、そう誤解されては遺憾いかんなので
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから先の事は自然の成行なりゆきで、大和の国に居る柳仙の親類なんかは一人も寄付かなかったんだから仕方がない。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)