悲痛ひつう)” の例文
街頭がいとうをさらし、ゆきまじりのかぜなかで、バイオリンをき、悲痛ひつううたをうたって、みちゆくひとあしめようとしました。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
兄が呶鳴どなっています。とても悲痛ひつうな叫び声です。今までにあんな声を兄が出したことを知りません。恐ろしい一大事が勃発ぼっぱつしたに違いありません。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤裸々せきらゝに、眞面目まじめに、謙遜けんそんゐることの、悲痛ひつうかなしみと、しかしながらまた不思議ふしぎやすらかさとをもあはせて經驗けいけんした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
大伴おおとも御行みゆき、粗末な狩猟かり装束しょうぞくで、左手より登場。中年男。荘重そうちょうな歩みと、悲痛ひつうな表情をとりつくろっているが、時として彼のまなざしは狡猾こうかつな輝きを露呈ろていする。………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
あらゆる醜状しゅうじょう世間せけんにさらしたきがいなき不幸ふこうな母と思いつめると、ありし世の狂母きょうぼ惨状さんじょうやわが過去かこ悲痛ひつうやが、いちいち記憶きおくからび起こされるのである。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
はげしい西風にしかぜえぬおほきなかたまりをごうつとちつけてはまたごうつとちつけてみなやせこけた落葉木らくえふぼくはやしを一にちいぢとほした。えだ時々とき/″\ひう/\と悲痛ひつうひゞきてゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こけももがいつかなくなって地面じめんかわいたはいいろのこけおおわれところどころには赤い苔の花もさいていました。けれどもそれはいよいよつめたい高原の悲痛ひつうすばかりでした。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
他のものはこれを護衛ごえいして、左門洞にひきあげた、しかし道は平坦へいたんではない、たんかは動揺どうようした、そのたびに架上かじょうのドノバンは、悲痛ひつう呻吟しんぎんをもらした、このうめきをきく富士男の心は
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と、努めて悲痛ひつうなものを自分の声にあらわすまいとするもののようにいった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久慈の、悲痛ひつうなる叫びごえは、そこではたと杜絶とだえた。通信機の前を彼が離れたのであった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
文麻呂 (悲痛ひつうな声をしぼって)小野ッ! 何を云うんだッ! 待ってくれ!……小野ッ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
しかしそれでながらかれ悲痛ひつうから憤懣ふんまんじやうが、たゞその瘡痍きず何人なんぴとにも實際じつさい以上いじやうおもせもしられもしたい果敢はかない念慮ねんりよかしむることよりほか何物なにものをもたなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かぜは、いちだんと悲痛ひつう調子ちょうしになって
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
悲痛ひつうな声が、血煙ちけむりのなかに残った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と次郎が悲痛ひつうな声でさけんだ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かれは一でもおつぎが自分じぶんはなれたことを發見はつけんあるひ意識いしきしては一しゆ嫉妬しつとかんぜずにはられなかつた。かれはさうして悲痛ひつうかんさいなまれた。村落むら若者わかものかれためには仇敵きうてきである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と検事は悲痛ひつう面持おももちで、あらぬ方を見つめた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巽小文治たつみこぶんじは、悲痛ひつうなこえでいった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにも悲痛ひつうな色をうかべた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)