はなは)” の例文
此説は世の伝ふる所とはなは逕庭けいていがある。世の伝ふる所は一見いかにも自然らしく、これを前後の事情に照すに、しつくりと脗合ふんがふする。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
公子夫婦の心ひやゝかなる、既に好き聽衆とすべきならぬに、今又此毒舌の翁を獲つ。我が本讀の前兆ははなはだ佳ならざるが如くなりき。
と、東京出発以来、いかにして調達すべきかと、それをばかり苦にしつゞけた池田君は、はなはだ、正直に、惜みなく、口もとをほころばした。
にはかへんろ記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
所謂いはゆる幹事の才なる者は蓋し彼に於て始めて見るべし。之を聞く彼れの時事新報を書くや些少させうの誤字をも注意して更正することはなはだ綿密なりと。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
一に私意を以て邪詖じゃひことばを出して、枉抑おうよくはなはだ過ぎたり、世の人も心また多く平らかならず、いわんやその学をそうする者をやと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
我邦近世ノ詩人六如師ハ第二集ヲ以テ絶佳トナス。杏坪きょうへい翁モマタ晩年ノ詩ヲ以テ絶佳トナス。ワガ友雲如山人詩篇はなはダ富ム。陸続トシテ刻ニ付ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
我ははなはつとめたりといへども、こころよく笑ひゆく彼等に続くあたはずして、独のこされしことの殆夢のごとかりき。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あだかも符節を合すような次第であったので一時はなはだしく激して誤まって父母の写真を投附たものゝ、それはその夜の失望が大いに怒を助けて居たので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
色彩に亢奮こうふんしていた私の神経の所為せいか、花嫁は白粉おしろいを厚く塗ってはなはうつくしいけれど、細い切れた様な眼がキット釣上つりあがっている、それがまるで孤のつらに似ている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
「人の悪をむるははなはげんなるなかれ、その受くるにうるをおもうを要す。人に教うるに善を以てするは、高きに過ぐるなかれ、それをして従うべからしむべし」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
天保五年の正月においては、米百俵に附き百四十五両余の相庭そうばとなり、餓莩がひょう路に満つの状ありき。「黄金はなはだ重く天下軽し」、小民怨嗟えんさの声は、貴人の綺筵きえんに達せず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その前にかたりし金を「維盛様御夫婦の路用にせんと盗んだ金」といふは、はなはだ矛盾せり。
江木衷博士夫人欣々女史は老後、大本教に帰依して自殺し、晩年はなはだ不幸であつたが、新派劇の総帥川上音二郎夫人貞奴は戦中も尚中熱海面に安穏に晩年を養つてゐたはずである。
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
急度きつとつゝしむならばと一トまづ勘辨かんべんにぞ及びけるよつて久八よりなほ又千太郎に堅く異見をなし呉々くれ/″\つゝしみ給へとてかげなり日向ひなたになり忠義をつくしければ千太郎もはなはだ後悔に及びしばらく吉原通ひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
初心の者はとかくに思ひつきたる趣向を十七字につづり得ぬとて思ひつるぞ多き、はなはだ損なり。十七字にならねば十五字、十六字、十八字、十九字乃至ないし二十二、三字一向に差支さしつかえなし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あり別れを惜みて伏水ふしみに至る。兵士めぐつて之をる。南洲輿中より之を招き、其背をつて曰ふ、好在たつしやなれと、金を懷中くわいちゆうより出して之に與へ、かたはら人なき若し。兵士はなはだ其の情をかくさざるに服す。
畢竟ひつきよう彼は何等の害をも加ふるにあらざれば、犬の寝たるとはなはえらばざるべけれど、縮緬ちりめん被風ひふ着たる人の形の黄昏たそがるる門の薄寒きにつくばひて、灰色の剪髪きりがみ掻乱かきみだし、妖星ようせいの光にも似たるまなこ睨反ねめそらして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「味はなはダ濃重ナル者ハ只宜シク独用スベシ、搭配スベカラズ……」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今年米賤太傷農 今年米やすくしてはなはだ農を傷む
詩人への註文 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
自分の注意のはなはだ粗漫だったことが……なぜ、もッと、完全なメモをとって置かなかったかということが、わけもなくくやまれたのである……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
袱紗ふくさに記した縁起、西山遺事の書後並に欄外書等は、自筆とは云ひながらはなはだ意を用ゐずして寫した細字に過ぎない。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
車を下る客の中に、稍〻肥えたる一夫人あるを見て進み近づき、たすけて下らしめ、ことさらに挨拶す。相識の客なればなるべし。夫人の顏色ははなはだ美し。
内藤岡ノ二士及ビ泥江春濤円桓同ジク舟ニ入ル。きょうともそなわル。潮ハまさニ落チテ舟ノ行クコトはなはすみやカニ橋ヲ過グルコト七タビ始メテ市廛してんヲ離ル。日すでくらシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
是れ実に驚くべし。しかも人し何故に彼が外史の編述に志したるかを知り更に其著の目的と其結果とのはなはだ相違せしことを察すれば更に一層の驚歎を加ふべし。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
市井しせいの間の小人の争いて販売する者の所為しょいと何を以てか異ならんや、と云い、先賢大儒、世の尊信崇敬するところの者を、愚弄ぐろう嘲笑ちょうしょうすることはなはだ過ぎ、其の口気甚だ憎む可し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人事の写実はかたく天然の写実はやすし。偶然の写実は材料少く、故為の写実は材料多し。故に写実の目的を以て天然の風光を探ること最も俳句に適せり。数十日の行脚あんぎゃを為し得べくんばはなはだ可なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
もと/\口数のすくない、俗にいう沈黙むっつりの方で、たまたま学友と会することがあっても、そうだそうでないと極めて簡短な語をもって、同意不同意を表白するだけで、あえてはなはだしく論議したことはない
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
こまやかに生茂おひしげれる庭の木々の軽々ほのかなる燥気いきれと、近きあたりに有りと有る花のかをりとを打雑うちまぜたる夏の初の大気は、はなはゆるく動きて、その間に旁午ぼうごする玄鳥つばくらの声ほがらかに、幾度いくたびか返してはつひに往きける跡の垣穂かきほ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたくしがことさらに此詩を取るのは、蘭軒の菅にはなはだ親しく頼に稍うとかつたことを知るべき資料たるが故である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
然れども紙面殆ど餘白を留めず、段落猶且連續して書し、以て紙數をしてはなはだ加はらざらしむることを得たり。
勿論、ぼくは、自分の、生れ、そして育った土地を、改めてみ直す機会をえたことを、はなはだよろこんだ。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
かゝる注入的の教育を以て人物を作らんとす、吾人其はなはだ難きを知る、昔し藤森弘庵、藤田東湖に語りて曰く、水藩に於て学校の制を立てしこと尋常一様の士を作るには足りなん
そのとしうるう九月、たま/\天文てんもんの変ありて、みことのりを下し直言ちょくげんを求められにければ、山西さんせい葉居升しょうきょしょうというもの、上書して第一には分封のはなはおごれること、第二には刑を用いるはなはしげきこと
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
イクバクモナクシテ都ニ入ル。坎坷かんか不遇。後ニ太政官だいじょうかんニ出仕シ、官ニアルコト十余年、明治庚寅こういん病ヲ以テほろブ。詩稿散佚さんいつシ流伝スルモノはなはまれナリ。余多方ニ捜羅そうらシ僅ニ数首ヲ得タリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
始終茶山とはなはうとくは無かつたのである。一説に田内は「でんない」と呼ぶべきであらうと云ふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
キリストに比すれば、光芒はなはだ減ずるを覚ふ、是余一人の私言に非ず、又「クリスチァン」の偏説にも非ず、歴史を編む者、こと/″\く之を認む、ルーサーも之を認め、ギボンも之を認め
演奏がおわってから、勝三郎らは花園をることを許された。そのはなはだ広く、珍奇な花卉かきが多かった。園を過ぎて菜圃さいほると、そのかたわら竹藪たけやぶがあって、たけのこむらがり生じていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
而して田口君は此点に於てはなはだ蘇峰氏に似たり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
たとひ我擧はかれの矢ぶみもて促しいどみたるところなりといへども、わが最終の言葉にはおそらくは影護きところあることを免れずして、我謀は到底はなはつたなしとせらるゝに至らむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
茝庭は抽斎の最も親しい友の一人ひとりで、二家にかの往来は頻繁ひんぱんであった。しかし当時法印の位ははなはとうといもので、茝庭が渋江の家に来ると、茶は台のありふたのある茶碗にぎ、菓子は高坏たかつきに盛って出した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
備わるを求むることのはなはだ過ぎたるものではなかろうか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)