鼈甲屋べっこうや)” の例文
その暗謨尼亜を造るには如何どうするかと云えば、こつ……骨よりもっと世話なしに出来るのは鼈甲屋べっこうやなどに馬爪ばづ削屑けずりくずがいくらもあって只呉ただくれる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから押しをして干し、鼈甲屋べっこうやへ渡すのであるが、斑のある部分と斑のないところを分けて切るところに、小刀さすがの使いかたがあるのだ、とおみきは云った。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大小のほうきたぐいを売る店、あるいは鼈甲屋べっこうやの看板を掛けた店なぞの軒を並べた横町に、土蔵造りではあるが見付きの窓や格子戸こうしども「しもたや」らしい家の前には
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おれは鼈甲屋べっこうやの職人だが、刃物はまいにち使いつけてるんだ」芳造は片方の裾をまくって帯にはさんだ、「やる気なら用心してやんな、おめえ足がふるえてるぜ」
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
捨吉は昔自分が育てられた町のあたりを歩いて通って見る気になった。ある小路こうじについて、丁度銀座の裏側にあたる横町へ出た。そこに鼈甲屋べっこうやの看板が出ていた筈だ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)