長範ちやうはん)” の例文
むかし熊坂長範ちやうはんが山で一稼ぎする積りでが更けて高野へ登つた事があつた。大きな伽藍がらんは皆門を閉ぢてゐるなかに、たつた一つ小さなの見える所がある。
癋見べしみめんに似た、荒々しい道具を見ると、この男は熊坂長範ちやうはんの生れ代りで、大量殺人の下手人と聽かされても、誰でもそのまゝ受け容れるでせうが、一度よりは二度
たゞ時代が丁度相応するので或はと思ふのである。日本外史や日本史で見ると、いきなり「兇険にして乱を好む」とあつて、何となく熊坂長範ちやうはんか何ぞのやうに思へるが、何様どういふものであらうか。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「あの山師坊主と來たら熊坂の長範ちやうはん見たいな顏をして居る癖に、坂田屋の内儀に附き纒つて大變な騷ぎをやつたさうですよ。あんなのに口説かれちや美い女も樂ぢやありませんね」
熊坂長範ちやうはんが親子連れで押込みに入つても驚くことではありません。
「あの顏では、喰ひつきは惡うございます、『鬼の面』とはよくつけた綽名あだなで、りが深くて、道具が大きくて、熊坂長範ちやうはんみたいですが、親切で思ひやりが深くて、涙もろくて几帳面で、申分のない男ですよ」