やすり)” の例文
彼は製罐部の護謨塗機ライニング・マシンの壊れた部分品を、万力台バイスにはさんで、やすりをかけていた。——足場の乗りが一分ちがったとする。その時チエンがほぐれて……。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
一日がかりでシュタイクアイゼンにやすりをかけたり、靴の曲った釘を打ちかえたりするような、はたから見るとたわいもない労力までが、もう岩角へとっついたように緊張させる。
煙の中にあいたたえて、あるいは十畳、二十畳、五畳、三畳、真砂まさごの床に絶えては連なる、平らな岩の、天地あめつちしき手に、鉄槌かなづちのあとの見ゆるあり、削りかけのやすりの目の立ったるあり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生きた骨にそのまゝやすりを当てられるような、不快さが直接じかに腕に伝わる。刃先から水沫のように、よれた鉄屑が散った。鍛冶場から、鋲付リベッティングの音が一しきり、一しきり機関銃のように起った。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)