迂闊うっかり)” の例文
翌日、焼芋屋の店をうかがふと彼は例の如く竈前かままえに遊んでゐる。しかし昨夜の事を迂闊うっかり饒舌しゃべつて、家内の者をさわがすのも悪いと思つたから、私は何にも言はなかつた。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
私は、迂闊うっかりしていたことをおかしく思いながら、通されて逢うと、幸三郎老人はなかなか話が分る。
ところが、貴方は迂闊うっかりそれを告白してしまったんだ。貴方は先刻さっき僕を診察して『何ともない、何ともない』といったときに僕の眼付を見なかった。ええ確かに見なかった。
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「それが、生憎あいにくとダンネベルグ様のお附添で、図書室に鍵を下すのを迂闊うっかりしてしまいました」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは賊が利口な奴で、『貨幣かねや紙幣は無難だが、宝石類は所持していても売っても足がつき易い』と考えたからです。当節は電信や電話というものがあって、犯罪者も迂闊うっかり出来ませんよ。
最初に八時を打たせて、それから半を鳴らせたので、自分の家の時計を見ると、恰度八時三十二分だったと云う。そこで、朔郎を訊して見ると、彼奴あいつ迂闊うっかりしていたと云って、躍り上った始末だ。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)