人の夢をも食う貘のような一世の美婦人が生れ出て、後醍醐の深宮に住み、皇太子の生母として威をふるッていたのである。
「東京堂へいくと、詩集がたくさんありましてね。そこで、ぼくが、最初に買ったのが、貘さんの詩集なんですよ。山之口貘。——って、感慨ぶかそうにいうんだよ」
上野動物園で貘の夫婦をあらたに購入したという話を新聞で読み、ふとその貘を見たくなって学校の授業がすんでから、動物園に出かけていったのであるが、そのとき
唯一つ貘の食べる「夢」を知らないばかりさ。「夢」は彼等にとつて余りに上品すぎる。