蒹葭けんか)” の例文
およそ水村の風光初夏の時節に至って最佳なる所以ゆえんのものは、依々たる楊柳と萋々せいせいたる蒹葭けんかとのあるがためであろう。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木村巽斎きむらそんさい、通称は太吉、堂を蒹葭けんかと呼んだ大阪町人は実にこの山水の素人作者である。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
砂町は深川のはずれのさびしい町と同じく、わたくしが好んで蒹葭けんかの間に寂寞を求めに行くところである。折があったら砂町の記をつくりたいと思っている。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蒹葭けんかの唯果も知らず生茂った間から白帆と鴎の飛ぶのを見た景色ばかりである。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
晴れた日に砂町の岸から向を望むと、蒹葭けんか茫々たる浮洲うきすが、わにの尾のように長く水の上に横たわり、それを隔ててなお遥に、一列いちれつの老松が、いずれもその幹と茂りとを同じように一方に傾けている。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蒹葭深処月明多 蒹葭けんかふかところ月明らかなることすぐれり〕
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)