菊屋橋きくやばし)” の例文
自動車は十二時過ぎの夜半の街衢まちを千束町の電車停留所を左にカーヴし、合羽橋かっぱばし菊屋橋きくやばしを過ぎて御徒町おかちまちに出で、更に三筋町みすじまちの赤い電灯に向って疾走して行きました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
油を浮かべたような菊屋橋きくやばしの堀割りへ差しかかったとき、女は駕籠のれを上げて背後うしろを見た。と、あの執念深い折助おりすけが、木刀を前半に押えて、とっとと駈けてくる。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
菊屋橋きくやばしのかけられた新堀しんぼりの流れ。三枚橋さんまいばしのかけられていた御徒町おかちまち忍川しのぶがわの如き溝渠である。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、ふと気がついて見ると、今はもう雷門かみなりもんもすぎて菊屋橋きくやばしまで来ていた。しかも私は、停留所の柱時計が十一時をすぎているし、あたりの店もそろそろ片づけ始めているのを見た。