新十郎は八ヶ岳山麓まであくまでつき従うという盤石の決意をくずしそうもない花廼屋と虎之介に、ちょッと淋しそうな顔をして、こう言った。
折から新十郎のもとに花廼屋、虎之介、お梨江の三名が居合せたのは神仏がヘタの横好きに憐れみを寄せたまうお志か。
新十郎は例によって花廼屋因果と泉山虎之介の三人づれ。古田鹿蔵巡査の案内で、人形町へやってきた。
洋服のヒゲ紳士は花廼屋、珍しや紋服姿の虎之介。この二人がなんとなくシサイありげに同じ目的地へ向っているのである。花廼屋は野づらを吹く左右の風を嗅ぎとって
花廼屋も同様らしく薄とぼけてニヤリニヤリしているが、単に無限にニヤリニヤリしているばかりで、日頃に似ず全然お喋りをしたがらぬ風が妙であるし、おもしろくもある。