腫物でき)” の例文
「きれいな子ですよ。お腫物でき一つできない……。」と言って、お銀は餅々もちもちしたそのもものあたりを撫でながら、ばさばさした襁褓むつきあてがってやった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
栄蔵は顔一面のお腫物できの中から、可愛かはいらしい眼で見てゐる赤ん坊を預ることは、あまり気がすすまなかつた。でも、嫌だといふことは、栄蔵の性質として出来なかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
あたしはまたねえ、アファナーシイ・イワーノヸッチ、あなたがお腫物でき腹痛はらいたで、おかげんでも悪かつたのぢやないかと、お案じしてゐたんですよ。だつて、あんまりお見えにならないんですもの。
「母は顔へお腫物できが出来ましたの」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしそれをいひ出す前に、自分のみすぼらしい服装や、背中に負つてゐる赤ん坊のお腫物できのことを、おもひ出してしまふのであつた。そこで新太郎ちやんは、黙つてゐるより仕方がなかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
新太郎ちやんは、向かふを向いたが、背中の赤ん坊は、お腫物できの少くなつた顔で、栄蔵の方を見てゐる。赤ん坊なら見てゐても構はない。栄蔵は持つて来た鳥目を、ぜにさしに一つ一つとほした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)