美妓びぎ)” の例文
寝間の窓から、羅馬ローマの燃上を凝視して、ネロは、黙した。一切の表情の放棄である。美妓びぎの巧笑に接して、だまっていた。緑酒を捧持されて、ぼんやりしていた。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
ことに、少女の顔に見るきよい美しさは、勝平などが夢にも接したことのない美しさだった。彼は、心の中で、金であがなった新橋や赤坂の、名高い美妓びぎの面影と比較して見た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二次会は新中島しんなかじまという宏壮な家で有志の人たちだけで催された。煌々こうこうたるシャンデリヤの下で、置酒交歓、感興成っていつ果つべくも見えない。土地の美妓びぎ数多あまた見えた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
じつにどうも癪に障るが、その晩の芦洲の口演を、ヂッと楽屋で聴いてゐると、その描写の巧さ、義賊も侠客も御家人ごけにん美妓びぎもみなさながらの浮彫りで、つい給金を呉れない不平など忘れてしまふ。
落語家温泉録 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
すぐ配膳となって、新柳の美妓びぎが扇なりに楚々そそすそを曳く。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い美妓びぎもあり、座持ちのうまい年増としまもあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)