羇旅きりょ)” の例文
こんな時にはかたくななジュセッポの心も、海を越えて遥かなイタリアの彼方、オレンジの花咲く野に通うて羇旅きりょの思いが動くのだろうと思いやった事もある。
イタリア人 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三人は日ごとに顔を見合っていて気が附かぬが、困窮と病痾びょうあ羇旅きりょとの三つの苦艱くげんめ尽して、どれもどれも江戸を立った日のおもかげはなくなっているのである。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それから右の表には出してないが、歌の部立ぶだて、つまり分類も、『古今集』が春・夏・秋・冬・賀・離別・羇旅きりょ物名ぶつめい・恋・哀傷・雑・雑体・大歌所おおうたどころ御歌としてから、大体この方針が承け継がれた。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
うれしやかかる雨具もあるものをとわれも見まねに頬冠りをなんしける。秋雨蕭々しょうしょうとして虫の草の底に聞こえ両側の並松一つに暮れて破駅既に近し。羇旅きりょ佳興に入るの時汽車人を載せて大磯に帰る。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)