築泥ついじ)” の例文
「そのわっぱはな、わしがひるごろ鐘楼から見ておると、築泥ついじの外を通って南へ急いだ。かよわい代りには身が軽い。もう大分の道を行ったじゃろ」
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
道の右手には破れかかった築泥ついじがあった。なかをのぞくと、何かの堂跡でもあるらしく、ただ八重やえむぐらが繁っている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
北ノ坪の入口に築泥ついじの高塀をつくり、善世というかたくなな召次のほか、男と名のつくものは一切奥へ入れぬようにしたが、間もなく姉娘の葛木姫が泰文の眼をぬすんで法皇に嘆願の文を上げたので
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
道がだんだん郊外の淋しい所へはいって行くと、石の多いでこぼこ道の左右に、破れかかった築泥ついじが続いている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
松明たいまつの行列が寺の門を出て、築泥ついじの外を南へ行くのを、鐘楼守は鐘楼から見て、大声で笑った。近い木立ちの中で、ようよう落ち着いて寝ようとしたからすが二三羽また驚いて飛び立った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夫婦仲のいい判官や府生ふせいの北ノ方、得度したばかりの尼君、というふうにむずかしければむずかしいほどいいので、これと見こんだら、尼寺の築泥ついじも女院の安主あんじゅも、泰文を食いとめることができない
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
尼寺の築泥ついじも女院の安主あんじゅも食いとめることができない。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)