田無たなし)” の例文
百は、ひとり、ぼんやりとふさいでいたが、やがて、かれも裏宿の地金屋からこもづつみのあら鐘をうけ取ると、それを肩に、田無たなしの家へ帰った。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田無たなしと云う処まで来ると、赤土へ自動車がこね上ってしまって、雨の降るくぬぎ林の小道に、自動車はピタリと止ってしまった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
山清水は常に傾斜を走下し、田地の全面積を浸して余りがあるからである。これに反して武蔵野・相模野の高台にあっては、多くの新村はいわゆる皆畠かいばたの村である。すなわち田無たなしである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そうだ、そうしなければ、武蔵住安重むさしのじゅうやすしげ田無たなしの刀屋敷といわれたこの家に住んでご先祖様に申しわけがねえ」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんどんどんと、百は田無たなしの家の戸をたたいていた。嬰児あかごを寝せつけているらしいおしげの子守唄が、外より暗い家の中に、ほそぼそと、聞えるのである。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一軍は田無たなし方面へと、三分裂の潰走かいそうを止めどなくして、かず知れぬ捕虜や死傷者を途中に捨てた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田無たなし宿しゅく草旅籠くさはたごに、その日は早く泊り、翌日あしたの道も、まだ武蔵野の原だった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)