焦躁もどか)” の例文
またしても私がその三野村にまた輪をかけたほど惚れているのに、それを遺憾なくわからすすべのないのが焦躁もどかしかった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ここまで光来と、小手にて招くに、得三は腰に付けたる短銃ピストル発射はなつ焦躁もどかしく、手に取って投附くれば、ひらりとはずして遁出すを、遣らじものを。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もつとも弟は黙つて詰めて居たので、兄の方は焦躁もどかしがつて、『貴様これへ入れろ——声掛けなくちや御年貢のやうで無くて不可いけない。』と自分の手に持つを弟の方へ投げて遣つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
同時に同じ出来事が僕を焦躁もどかしがらせたのもうそではない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また私自身にしても、そんなことを思ってみるさえ堪えられない焦躁もどかしさに責めさいなまれるので、そんな悩ましい欝懐おもいをばなるべくそのままそっと脇へ押しやっておくようにしておいたのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あまり女の心のいい甲斐がいなさと頼りなさとが焦躁もどかしかった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)