焦燥せうさう)” の例文
好い男の顏が、苦惱と焦燥せうさうにさいなまれて、濃い影を作つて居りますが、態度はさすがに客馴れた調子で、少しも惡びれません。
ふと我に返つて伊藤が英語の誤訳を指摘されたりした場合、私の心臓はしばし鼓動をやめ、更に深く更にやるせない一種の悲壮なまでの焦燥せうさうが底しれず渦巻うづまくのであつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
将門始末では、将門が護のむすめを得て妻としようとしたが護が与へなかつたので、将門が怒つたのが原因だと云つて居る。して見れば将門は恋のかなはぬ焦燥せうさうから、車を横に推出したことになる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
焦燥せうさう
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小助は不安と焦燥せうさうにかき廻されて、日頃の落着きを失つてゐるらしい店の者や近所の衆をかきわけて、奧のさゝやかな部屋に平次を案内しました。
この素晴らしい競爭者には、どうせ太刀打が出來ないと思つたのでせう、眉宇びうの間に焦燥せうさうの稻妻は走りますが、でも、唇には愛想の良い微笑さへ浮びます。
平次が乘込んだ時は、加納屋は無氣味な不安と焦燥せうさうに、沼の底に沈んだ寺のやうに靜まり返つて居ました。
それからほんの半刻、平次も八五郎も、不思議な焦燥せうさうに、つとして居られないやうな心持でした。
櫓の手を止めた音次郎は、滅入るやうな淋しさと、燒きつくやうな焦燥せうさうと、全く違つた二つの感情にさいなまれて、舟縁ふなべりに危ふくすがりついてゐる、お京の側へ膝を突きました。