火点ひとも)” の例文
岸本はこの珍客が火点ひともごろを選んでこっそりとたずねて来た意味をぐに読んだ。いたましい旅窶たびやつれのしたその様子で。手にした風呂敷包と古びた帽子とで。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
風邪をひいて寝ていた私は、火点ひともし頃になってようやく目をさました。周囲を見廻すと人がいないし、外に出て見ても変に往来は人通りがなく、何処の家も大変静粛であった。
わたしには一寸努力の要することだつた。……汽車の発着のない火点ひともごろの構内で、ガランとした三和土たゝきの上に立つて、何かこれでもう考へ落した事はなかつたかと思つて見た。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
火点ひともしごろ過ぎて上田うえだに着き、上村に宿る。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)