気乗きのり)” の例文
旧字:氣乘
自分は気乗きのりのしないのを、無理にペンだけ動かしつづけた。けれども多加志の泣き声はとかく神経にさわり勝ちだった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の頭はまたそれに対して気乗きのりのした返事をするほど、穏かに澄んでいなかった。彼は折を見て、ある候補者を自分に紹介すると云った。自分は生返事をして彼の家を出た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「むむ、十九日十九日、」と、気乗きのりがしたように重ね返事、ふと心付いた事あって
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また贈答歌を通読するに、宅守よりも娘子の方がたくみである。そしてその巧なうちに、この女性の息吹いぶきをも感ずるので宅守は気乗きのりしたものと見えるが、宅守の方が受身という気配けはいがあるようである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
片隅の本箱の上に積んだ原稿紙を五六十枚つかんで来て、懐から手帳を出して手早く頁を繰つて見たが、これぞと気乗きのりのする材料も無かつたので、「不漁ふれふだ、不漁だ。」と呟いて机の上に放り出した。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)