此女こいつ)” の例文
この女に溺れてしまって斯様こんな眼に会わされるのが気持よく感ずる迄に堕落してしまったんだ。けれども此女こいつはそれで満足出来なくなった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
誰でも可い、何をするととがめりゃ、黙れとくらわす。此女こいつ取調とりしらべの筋があるで、交番まで引立ひったてる、わしは雀部じゃというてみい、何奴どいつもひょこひょこと米搗虫こめつきむしよ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然うして後から私も化け込んで、見え隠れに附けているとも知らず、此女こいつとお前さんは道連れに成って仲好くして、縺れぬばかりに田圃路を歩きなすった。案山子かがしまで見て嫉妬いていたじゃあないか
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
今度はおれを失恋させておいて、そいつを見ながら楽しむつもりでお前を引っぱり込んだ。おれが起きているのを承知で巫山戯ふざけて見せた。……けれどもおれが此女こいつを殺したのは嫉妬じゃない。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「驚いたろう。しかしあぶないところだった。もすこしで此女こいつの変態性慾の犠牲になるところだった。こいつは鶴原子爵を殺し、僕を殺して、今度は君に手をかけようとしたのだ。これを見たまえ」
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)