楫取かじとり)” の例文
甚八という楫取かじとりが左太夫のそばに立ってそういった。左太夫は眼をとじて潮の音を聞き、舷のほうへ行って海の色をながめていたが
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
水主かこ楫取かじとりもその高波の下を潜って、こけつまろびつ、船の上をかけめぐっていたのが、この時分には、もう疲れきって、帆綱にとりついたり、荷の蔭に突伏つっぷしたりして
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
艫に突っ立って、手びさしをして、さっきからジッとその船を眺めていた楫取かじとりの八右衛門
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
がやがや騒ぐ水手かこ楫取かじとりどもをおさえた船頭が、またも何か驚異の叫びを立てて
遠州新居あらい筒山船つつやまぶねに船頭左太夫以下、楫取かじとり水夫かこ十二人が乗組んで南部へ米を運んだ帰り、十一月末、運賃材木を積んで宮古港を出帆、九十九里浜の沖合まで来たところで、にわかの時化しけに遭った。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
名古屋納屋町小島屋庄右衛門の身内に半田村の重吉という楫取かじとりがいた。尾張知多郡の百姓だったのが、好きで船乗りになり、水夫から帆係、それから水先頭と段々に仕上げ、二十歳前で楫場に立った。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
楫取かじとりの甚八が詰まらなそうな顔でいった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)